ああ、そうだ。
 エリスの妊娠は、まだ宮の外には漏らしていない。使用人たちはそう言っていた。

 それなのに、噂の内容はエリスの妊娠を示唆するものだった。
 ということはつまり、噂を流した人間は、エリスの妊娠を知っていたということになる。

 ――それはいったいどうしてか。

 噂を流した犯人が、エリスの腹の子供の父親だからか?
 いいや、違う。

 エリスは絶対にそんなことはしない。
 自分以外の男に身体を許すなど、エリスに限って有り得ない。

 それにそもそも、自分が不在だったのはたったの一ヵ月である。

 その間に子を成したとしても、妊娠が判明するのはもっと後になるはずだ。

 ――それくらいの基本的知識は、アレクシスとて身に着けていた。
 ということは。

 可能性として最も高いのは、エリスの妊娠が判明してからこれまでの間に、第三者に妊娠の事実を知られてしまったということ。

 つまり、この一月の間にエリスが連絡を取り合った人物。それが、噂を流した犯人である可能性が高い。


 アレクシスは、噂を流した何者かへの殺意をむき出しにしながら、エリスの部屋の家具の引き出しという引き出しを片っ端から開け放ち、中身を床に投げ捨てていった。


「どこだ……! どこにある……!」――と。

 この部屋のどこかにあるはずの、エリスがやり取りした相手との痕跡を見つけるべく。