マリアンヌは、二通の手紙の同じ単語をそれぞれ指差し、アレクシスに謝罪する。

「ここ、一見同じに見えますが、Sの形が少々違うのです。……申し訳ございません、お兄様。この手紙を受け取ったとき、すぐに気付いていればこのようなことには……」
「いや、これだけ似ていたら、気付くのは難しい。お前が気に病む必要はない」
「いいえ、そんな風におっしゃらないで。以前のわたくしなら、手紙を受け取ったとき、すぐに気付けたはずですもの」
「以前のお前なら? どういう意味だ」

 アレクシスが困惑気に尋ねると、マリアンヌは意を決した様子で、口を開いた。

「わたくしには、エリス様が外出を取りやめられる理由に心当たりがあったのです。ですから、手紙の出所を疑いませんでしたの」

 マリアンヌは、酷く言いにくそうな顔で、言葉を続ける。

「きっとお兄様のお耳にもすぐに入ると思いますから、お伝えしますが……。一週間ほど前、宮廷内にとある噂(・・・・)が立ちましたの」
「噂?」
「はい。クロヴィスお兄様がすぐに止めに入ってくださいましたし、今はシーズンオフなので、それほど広まりはしなかったのですが……」
「…………」

(何だ? マリアンヌは、いったい何を言おうとしている?)

 噂について全く心当たりのないアレクシスは、目の前のマリアンヌの態度を不可解に思いながら、答えを待つ。

 そんなアレクシスに突き付けられた、マリアンヌの言葉――それは。

「エリス様が、お兄様以外の男性と通じ……子供を身ごもった……と」

 ――などという、全くもって信じ難い内容だった。