「よく来てくれた。掛けてくれ」
「……はい」

 事が事だからだろう、マリアンヌの表情は暗い。

 アレクシスの知るマリアンヌは、兄妹相手だろうと決して微笑みを絶やさない皇女の(かがみ)のような女性だが、今日のマリアンヌはまるで別人のように静かなのだ。

 アレクシスはそんな妹の様子に、マリアンヌがエリスについて、何かを知っているのだと悟った。


 アレクシスは執務卓からソファへと移動し、テーブルを挟んでマリアンヌの対面に腰かける。
 すると、マリアンヌは挨拶も早々に、二通の手紙をテーブルに置いた。

「これは?」

 アレクシスが尋ねると、マリアンヌは神妙な顔で瞼を伏せる。

「どちらも、エリス様からわたくしに宛てられた手紙……と言いたいところですが、右の手紙は、エリス様の名を語った別の者からの、いわゆる、偽物ですの」
「偽物だと? どういうことだ」

 マリアンヌの話はこうだった。


 昨日、図書館に向かうためにマリアンヌが皇女宮を出る寸前、このような手紙が届いた。

『急用のため、図書館に行けなくなりました。大変申し訳ございません。 エリス』

 マリアンヌはそれを読み、多少の違和感を覚えたものの、外出を取り止めた。

 だが明朝、セドリックからエリスが帰っていないことを知らされ、慌てて、以前エリスから届いた別の手紙と、筆跡を比べてみたという。
 その結果、別人が書いたものであることが判明したのだ。