「……クソッ。――エリス……」


 ホテル側に断られてしまった今、アレクシスの頭にはもう、武力での強行突破以外に考えが見つからなかった。

 だが、客観的に見て事件性があると言いきれないこの状況で、他国の王侯貴族らが集まる場所でむやみに武力を行使したらどうなるか。

 自分が責められるだけでは済まない。
 諸外国から、帝国皇族と帝国軍への非難が集まるだろう。

 それだけは、どうあっても避けなければならない。
 つまり今のアレクシスに、できることは何もないのだ。


「…………」

(俺は、シオンを信じて待つしかないのか?)


 ――すると、そう思ったときだった。

 部屋の扉がノックされ、従者の声がする。

第四皇女(マリアンヌ)殿下がお越しになりました。お通ししてもよろしいでしょうか」


(……マリアンヌ?)

 その名前に、アレクシスはハッと我に返った。

(そう言えば、セドリックがマリアンヌにも連絡をすると言っていたな)

 そもそも、エリスはマリアンヌと会うために図書館に行ったのだ。マリアンヌなら、何か知っている可能性が高い、と。

 きっとマリアンヌは、セドリックからの報せを受け、こうして訪れてくれたのだ。
 

「通せ」


 アレクシスがマリアンヌと最後に対面したのは、三ヵ月以上前の建国祭のとき。

 その後は一度、演習出立前日の第二皇子(クロヴィス)とのチェス対戦時に壁越しに声を聞いたが、あれからまだ一月しか経っていないというのに、随分前のことのように思える。

 アレクシスはそのときのセドリックの不可解な態度を思い出しながら、マリアンヌを出迎えた。