(それなのに、まさか帝国ホテルに泊まっただと?)

 確かにエリスの身分ならば、宿泊自体は可能だろう。
 けれど図書館に出掛けただけのエリスが、自身の身分を証明する何かを持ち歩いているとは考えにくいし、支払い能力もないはずだ。

 そんな状況で宿泊を申し込もうものなら、このエメラルド宮に連絡が届くに決まっている。
 しかし、未だそんな連絡はきていない。ということはつまり、二人は自分たちで部屋を取ったのではなく、別の誰かの部屋に泊まっているということになる。

 ――だが、いったい誰の部屋に? どんな理由で?

(図書館で倒れたというエリスの体調も気がかりだが、エリスを休憩室に運んだという男はいったい何者だ? 茶髪の長身ということだったが、そんな男は掃いて捨てるほどいる。もしやエリスとシオンは、その男の部屋に泊まっているのか? ……とにかく、帝国ホテルを当たってみるしかない)

 アレクシスは焦りを募らせながら、明朝、ホテル側に宿泊客の名簿を提出するように求めた。

 だがホテル側は、宿泊客のプライバシーを保護する目的で、あっさり断ってきたのである。

 

「――まさか皇族の命令を断るとは……」

 アレクシスは苛立ちを誤魔化すように、ぐっと奥歯を噛み締める。

 アレクシスは、いくら格式高いホテルでも、皇族の命令を断りはしないだろうと考えていた。

 帝国は法と秩序を重んじる法治国家だが、皇族の権力は絶大。名簿の一つや二つ、すぐに提出するだろうと。

 だが、結果はこの通り。