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その時のことを思い出したシオンは、罪悪感に顔を歪める。
シオンは、リアムの目的が、『エリスとのスキャンダル』を起こすことだったと悟ると同時に、オリビアにエリスの正体を見事言い当てられ、頭に血が上ったあまりオリビアを怒鳴りつけてしまったのだ。
「気付いていたならどうして止められなかった!」と。
オリビアには何一つ非はないと、わかっていながら。
その後は、自分の怒鳴り声に何事かと駆け付けた司書たちの目を避けるように、エリスとオリビアを連れ、職員用の裏口から逃げ出した。
だが、図書館から出たはいいものの、帝国に渡って三ヵ月しか経っていないシオンに、行く当てなどあるはずなかった。
エリスとオリビアを学院の男子寮に入れるのは当然不可能だ。かと言って、眠ったままのエリスを宮に帰すことはできない。
オリビアはエリスの身体は無事だと言ったけれど、それを簡単に信じられるほど、シオンはお人よしではなかった。
もし湯浴みの最中に唇の吸い痕一つでも見つかれば、大変なことになるからだ。
それに、まだオリビアから全ての話を聞けたわけではない。
リアムがどうしてこのような行動を起こしたのか、その原因を探るまで、オリビアを解放してしまうわけにはいかなかった。
何よりオリビア自身が、「今の兄とは顔を合わせたくない」、つまり、帰りたくないと言ったのだ。
(でも、どうする。学院にかくまってもすぐに見つかる。かと言って、今は宿を借りられるほどの手持ちはない。姉さんとオリビア様、二人ともを連れて隠れられる場所は……)
そう考えたとき、シオンの脳裏に過った一人の人物。
(もしかして、あの方なら……。一か八か、賭けてみるしかない)
シオンは辻馬車を捕まえ、眠ったままのエリスとオリビアと共に乗り込むと、御者に行先を告げる。
「帝国ホテルへ向かってください」――と。



