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 シオンが休憩室に着いたとき、そこに待ち受けていたのはオリビアだった。

 室内にはリアムの姿はなく、部屋の奥のソファにエリスの姿を捉えたシオンは、ぐったりとしたエリスの様子に、戦慄した。


「……姉、さん……?」

 エリスの衣服に残された、乱れた痕跡。
 そこから推測される可能性に、リアムへの猛烈な殺意が沸き上がる。

 反射的にエリスに駆け寄り抱き締めたはいいものの、怒りと憤りで、どうにかなってしまいそうだった。

 だが、怒りに身体を震わせるシオンに、オリビアは告げたのだ。
 
「落ち着きなさい、シオン。あなたの考えているようなことは起こってないわ。その衣服(ドレス)の乱れは、わたくしがやったのよ。お兄様がこの方に手を出していないのか、確かめる必要があったから」

 ――と。
 力強く、けれど切実な声で、オリビアは訴える。

 建国祭以降、リアムの様子がどこかおかしかったこと。
 話しかけても上の空だったり、思い悩んでいることが増えたこと。

 更にここ一週間は、まるで以前とは別人のように、冷たい顔をするようになったことを。

「だからわたくし、お兄様を尾行していたの。そうしたら、お兄様はお倒れになったこの方を『連れ』だと仰った。――そんなはず、絶対にあり得ませんのに……」
「…………」
「世間知らずのわたくしですら、女性を個室に連れ込むことの意味くらい理解しているわ。お兄様のしたことは、決して許されることではない。でも、お兄様は理由もなくこのようなことをする方ではありませんの。ですから、お尋ねしたいのよ。――わたくしがこの部屋に駆け付けたとき、お兄様はこう言ったわ。『目的は達せられた(・・・・・・・・)。後は好きにしたらいい』って。それは、あなた方の正体と関係がありますの? この方、本当は帝国貴族なのでしょう? それどころか……もしかして――」

「――!」