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「ああッ、クソッ! いったい何がどうなっている……!」
それから少し後、アレクシスはセドリックと二人きりの執務室で、苛立ちを露わにしていた。
ソファに項垂れこめかみを押さえながら、シオンから届いたであろう手紙を凝視する。
――率直に言って、アレクシスは混乱していた。
出掛けたまま戻らないエリスに、シオンからの不可解な手紙。
その上、続けざまに使用人の口から語られた『エリス懐妊』の事実に、喜びが湧くどころか、心配は増すばかりだった。
けれど同時に、今は狼狽えている場合ではないということを、アレクシスは理解していた。
なぜならアレクシスは、この事態がシオン単独で起こしたことだとは、どうしても思えなかったからだ。
――そう。
アレクシスは、ある意味でシオンを信じていた。
(シオンは、こんな中途半端なやり方はしない)
現に使用人たちは、手紙を見て顔色を変えたアレクシスに対し、口々にこう言った。
「シオン様は、訳もなくこのようなことはなさりません!」
「エリス様の懐妊がわかって以降、毎日のようにこちらに通われ、エリス様をお支えしていたのですから」
「先週だって、熱を出されたエリス様から一時も離れずに看病なさって。今日の外出も、ぎりぎりまで反対されていたのですよ!」
「エリス様のご負担にならないよう、なるべく早く戻ると仰って出掛けられたのに……こんなの、何かあったとしか……」
『シオンがバルコニーから飛び降りようとした一件』以来、シオンが極度のシスコンであることは、使用人全員が周知の事実。
実際、アレクシスが不在のこの一月、シオンのエリスに対する過保護ぶりは舌を巻くほどだったという。
そんな彼らが、口を揃えて訴えたのだ。
『シオンは、こんなやり方はしない』――と。



