(これじゃあ、姉さんの側を離れた意味がない。エメラルド宮を出るとき、僕は決めたじゃないか。いつかちゃんと姉さんに頼られるような、強い男になるんだって。……それなのに、あんなに余裕のない態度を見せたりして……それどころか怯えさせるなんて……最悪だ)

 シオンは、そのときのエリスの表情を思い出し、本棚に手をついて盲反する。

 ――すると、そのときだった。

 シオンのすぐそばの廊下を横切る、三人の若いレディたち。
 その女性たちの興奮気味の声が、シオンの意識を現実へと引き戻す。


「それにしても、さっきは驚いたわね。あの方、突然倒れられて。心配だわ」
「ほんとうよね。お顔が真っ青だったもの。でも、もっと驚いたのはその後じゃない?」
「ええ、ええ! わたくし、思わず叫んでしまいましたわ。倒れた女性を抱きかかえられて、『どいてくれ。彼女は私の連れだ』って! まるで童話の王子様のようでしたわよね、リアム様(・・・・)ったら!」


「――!」

(今、リアムと言ったか?)

 瞬間、シオンは大きく目を見開いた。
 何の前触れもなく耳に届いたリアムの名前に、彼の鋭い勘が警鐘を鳴らす。
 
 ――まさか、と。

 エリスの名前など一言も出ていないというのに、その予感を拭えない。

 シオンは堪らず、女性たちを呼び止める。

「……あの! 今の話、詳しく教えていただけませんか? 僕、リアム様の知り合いなんです」