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(……でも、まだ返事がいただけてないのよね)


 エリスは、ウェイターが運んできた紅茶を嗜みながら、再び小さく息を吐く。

 リアムに断りの返事を出して以降、気持ちは随分とすっきりした。
 オリビアやリアムへの罪悪感は残れども、これで心置きなくアレクシスを出迎えることができる、と。

 けれど、一つだけ気になることがあった。
 一週間が経っても、リアムからの返事がないのである。

(やっぱり気分を害してしまったのかしら。下手な言い訳をするのもどうかと思って、結論だけを書いたのが良くなかったのかもしれないわ)

 とは言え、こればかりは仕方ない。
 リアムから恨まれようとも構わない――エリスはそんな覚悟を決めて、断りの返事を送ったのだから。


(それにしても、マリアンヌ様はまだかしら。時間に遅れられるなんて、初めてのことよね)

 ――と、そう思ったその時だ。

 不意に足音が聞こえ、エリスはそちらを振り返った。
 ようやくマリアンヌが到着したのかと、そう思ったのだ。

 だが、違った。
 そこにいたのは、マリアンヌではなく、リアム。

 何の前触れもないリアムの登場に、エリスは驚きを隠せない。
 
(リアム様? どうして、こちらに?)

 偶然だろうか。――きっとそうだ。
 ここは帝国図書館。リアムがいても何らおかしくはない。

 けれど、どうしてだろうか。
 どうにも、嫌な感じがするのは……。