ジークフリートは、海を眺めるアレクシスの横顔を興味深そうに見つめ、小さく息を吐く。
「そんなに悩むくらい、惚れてるんだね」
「……惚れ……何だと?」
「もうさ、今の気持ちをそのまま書けばいいと思うよ? 別に、誰に見られたって構わないじゃないか。悪口を書くわけじゃないんだし。愛を伝えるって、とても素敵なことだよ」
「…………」
「じゃあ、僕は書き終わったから、先に出してくるね」
ジークフリートはそう言うと、どういうわけかウインクをかまし、郵便局内へと入っていく。
アレクシスはその背中を見送り、再び絵ハガキへと視線を落とした。
今朝見た悪夢のせいか、一層エリスを恋しく感じる――この気持ちをどう伝えたらいいものか、悩んだ末、ペンを走らせる。
すると、そのときだ。
丁度書き終えたタイミングで、スリを警備隊に引き渡しにいっていたセドリックが戻ってきた。
「殿下、お待たせしました。……それは絵ハガキですか? もしや、エリス様に?」
「……まぁ、な。ジークフリートが、どうしても書けというから」
アレクシスは意味不明な言い訳をしながら、文面を見られないように絵ハガキを裏返す。
すると、セドリックは唇を緩ませた。
「それはそれは……。きっと喜んでいただけますよ。さっそく出しに行きましょう」
「あ、あぁ」
アレクシスはセドリックに促され、中へと入っていく。
――それはあまりにも平和な時間だった。
だから、アレクシスは考えもしなかったのだ。
自分が帝都不在の間に、エリスの身に何が起ころうとしているのかを――。



