【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


 ジークフリートは、海を眺めるアレクシスの横顔を興味深そうに見つめ、小さく息を吐く。

「そんなに悩むくらい、惚れてるんだね」
「……惚れ……何だと?」
「もうさ、今の気持ちをそのまま書けばいいと思うよ? 別に、誰に見られたって構わないじゃないか。悪口を書くわけじゃないんだし。愛を伝えるって、とても素敵なことだよ」
「…………」
「じゃあ、僕は書き終わったから、先に出してくるね」

 ジークフリートはそう言うと、どういうわけかウインクをかまし、郵便局内へと入っていく。
 アレクシスはその背中を見送り、再び絵ハガキへと視線を落とした。

 今朝見た悪夢のせいか、一層エリスを恋しく感じる――この気持ちをどう伝えたらいいものか、悩んだ末、ペンを走らせる。

 すると、そのときだ。
 丁度書き終えたタイミングで、スリを警備隊に引き渡しにいっていたセドリックが戻ってきた。

「殿下、お待たせしました。……それは絵ハガキですか? もしや、エリス様に?」
「……まぁ、な。ジークフリートが、どうしても書けというから」

 アレクシスは意味不明な言い訳をしながら、文面を見られないように絵ハガキを裏返す。
 すると、セドリックは唇を緩ませた。

「それはそれは……。きっと喜んでいただけますよ。さっそく出しに行きましょう」
「あ、あぁ」

 アレクシスはセドリックに促され、中へと入っていく。


 ――それはあまりにも平和な時間だった。

 だから、アレクシスは考えもしなかったのだ。

 自分が帝都不在の間に、エリスの身に何が起ころうとしているのかを――。