するとジークフリートは驚いた様に目を見開いて、「はははっ!」と笑い声を上げる。
「そんなの決まってるだろう。好きだからだよ」
「……好き? ですが、好かれる理由など」
「あるんだよ。僕は昔から、人の心の中にある『揺るぎない強さ』に惹かれてしまう性分でね。君のアレクシスへの忠誠心や、シオンのエリス妃への崇拝的な愛。それに、アレクシスの何者にも流されない芯の強いところなんか、見ていてゾクゾクするんだよ。それが正しいかどうかは関係ない。どれだけ僕の心を震わせてくれるか、それだけが大事なんだ」
「…………」
「だからさ、僕は君たちを応援しているよ。全員が幸せになる道はなくても、納得のいく答えを見つけられたらいいよね」
きっとこれはシオンのことを言っているのだろう。
そう思いながら「はい」と相槌を打つと、丁度そのタイミングでアレクシスが戻ってきた。
左手に三本の串焼きを持ちながら、「おい、さっきからコソコソと何を話している」と訝し気な顔をして。
「いつまで経っても来ないから、俺が買ってきてやったぞ。ほら、セドリック」
「……ありがとうございます」
「ジークフリート、お前も一本どうだ」
「えっ、僕? ……驚きだな。君が僕に食事を勧めるなんて、空から鉄砲玉が降ってくるんじゃないかい?」
「お前な……。いらないならそう言えばいいだろう。どこまでも口が減らん男だ」
「ああ、ごめん、あんまり意外だったから。有難くいただくよ。ありがとう、アレクシス」
「口に合わなければ護衛にでも食わせておけ。――それを食べたらもっと奥に行くぞ。俺も市場は久しぶりでな。せっかくだから一通り見ておきたい」
「いいね、すごく楽しそうだ」
こうして、その後三人は市場を色々と見て回った。
その間、アレクシスがジークフリートと言葉を交わしたのはほんの数えるほどだったが、そこに流れる空気は決して険悪なものではなく、むしろ、良好と言っても差支えのないほど穏やかな時間だった。



