【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

 確かに、ジークフリートの言葉は間違ってはいない。

 セドリックはエリスの輿入れ前、釣書を見たときから、エリスがアレクシスの初恋の相手かもしれないと予想していた。

 だがその予想に反し、アレクシスは初夜の翌日、『エリスの肩に火傷の痕はなかった』と言ったため、セドリックは二つの可能性を考えなければならなくなった。

 一つは、二人が別人であること。
 もう一つは、本人であるが、火傷の痕を隠しているという可能性。

 だからセドリックは舞踏会の夜、エリスの弟(シオン)をランデル王国に送り返す直前、カマをかけたのだ。

 エリスが本物であるという前提で、火傷の原因(・・)を探るような聞き方をし、火傷の痕があることを確かめようとした。

 するとシオンから返ってきた答えは、「火傷など知らない」ではなく「言えない」。
 つまり、火傷の痕が残っていることが、その時点で確定したというわけだ。

 だが、セドリックはそのことをアレクシスに報告しなかった。
 その理由は、アレクシス自身の手で答えに辿り着いてほしいと、セドリックが願ったからだ。

 その心を、ジークフリートは『愛』だと言うが、セドリック自身は単なるエゴだと考えている。――とは言え、訂正するほどのことでもないだろう。

 セドリックは肯定を沈黙で示し、アレクシスが視界の端にいることを確認してから、ジークフリートに問いかける。

「私も、一つお尋ねしてよろしいでしょうか」
「なんだい?」
「なぜ、そこまでアレクシス殿下を気にかけるのですか? 正直、学生時代の殿下の態度は無礼と言わざるをえないものでした。それなのにジークフリート殿下は、殿下の恋を『応援していた』と仰った。それが、どうしても腑に落ちないのです」