「……建国祭です。殿下が、エリス様の正体に気付かれたのは。――ですが」
セドリックは、一呼吸置いて続ける。
「アレクシス殿下がエリス様を愛されたのは、エリス様が初恋の少女だったからではありません。たとえエリス様が初恋の相手ではなかろうと、殿下はエリス様を愛されておりました。それだけは、断言できます」
「…………」
「ですから、あまり詮索しないでいただけませんか? 確かにお二人の再会は運命だったかもれません。ですが、それを周りが騒ぎ立てるのは違うでしょう」
建国祭で二人の想いが通じ合って、ようやく三ヵ月。
セドリックから見れば、二人はまだまだこれからお互いのことを知っていく段階だ。
そんな大事な時期に、今の様に色々と探られたり、茶々を入れられたら堪らない。
セドリックはそんな気持ちで、ジークフリートを牽制する。
するとジークフリートは数秒ほど沈黙し、片方の口角をあげた。
「なるほどね。だから君は、エリス妃の正体に気付いていながら、アレクシスに伝えなかったのか」
「……それは、どういう……」
「君は舞踏会の夜、シオンにエリス妃の火傷の原因を尋ねていたね。実はあのとき、僕も側にいたんだ」
「――!」
「君の質問に、シオンはこう答えた。『姉さんが教えていないことを、僕が言うわけにはいかない』。あの答えで君は、エリス妃に火傷の痕があると確信し、同時に、彼女がアレクシスの初恋の相手であると悟ったはずだ。でも、君はアレクシスに報告しなかった。僕はそれを不思議に思っていたんだ。――だが、今の君の反応を見て納得がいったよ。全てはアレクシスへの愛ゆえ、だったんだね」
「…………」



