【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

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(とにかく、ジークフリート殿下から目を放さないようにしなくては)

 近衛がいるとはいえ、一瞬たりと気は抜けない。
 万一にでも他国の王子に怪我など負わせたとなれば、責任問題になってしまうからだ。

 せめてアレクシスがもう少し気を遣ってくれればいいのだが、道中ジークフリートと殆ど言葉を交わさなかったことを考えると、きっと頼りにはならないだろう。

 現にアレクシスは今も、ジークフリートのことはセドリックに丸投げし、ひとり自由気ままに買い食いをしているのだから。

 ――セドリックがアレクシスの背中を呆れた気持ちで眺めていると、不意にジークフリートが話しかけてくる。

「ところでセドリック、君に聞きたいことがあるんだけど、いいかい?」
「? ええ、何でしょう」

 シオンのことなら、行きの馬車の中で話したはずだが。
 となると、エリスのことだろうか。

 やや警戒しつつも頷くと、ジークフリートは静かな声でこう尋ねた。

「アレクシスは、いつエリス妃の正体に気が付いたんだい?」
「……なぜ、そのようなことを?」
「興味があるんだ。アレクシスがエリス妃と、どうやって心を通わせたのか。……アレクシスがあんなに丸くなったのは、エリス妃のおかげなんだろうからね」
「……丸く、なってるでしょうか?」
「それ、本気で聞いてるのかい? 説明なんてしなくても、君はとっくにわかっていると思うけどな」
「…………」

 確かに、少し前までのアレクシスならば、ジークフリートの言葉を正面から受け取ることはなかっただろう。

 『君を応援していた』と言われたところで、返事一つせずに退席していただろうし、そもそも、ジークフリートと席を並べることすらなかったはず。

 当然、今日のように同じ馬車に乗り、共に出掛けるなど有り得ない。

 それが変わったのは、エリスが嫁いできたからだ。

 だが、ジークフリートは一つ大きな勘違いしている。
 それはきっと、アレクシス自身も気付いていない、最も単純な事実。