刹那、アレクシスは強い衝撃を受けた。
この男にも、人を心配する心があるのかと。
アレクシスの知るジークフリートという男は、他人の人生を自分の暇つぶしくらいに思っている人間だった。
他人の願いを引き出し、叶え、陶酔させるか、自分の意のままに動く駒とする。
少なくとも、アレクシスから見た学生時代のジークフリートは、そういう人間だった。
だが、本当にそうだったのだろうか。
不意に、アレクシスの中にそんな感情が芽生える。
(正直、俺はこいつを許せないし、許すつもりもない。理解も共感も納得もできん。だが、そもそも俺は今まで少しだって、この男のことを知ろうとしたことがあったか?)
――いや、ない。
学生時代、同じ寮で共に数年を過ごした間柄だと言うのに、アレクシスは一度だって、ジークフリートに自分から声をかけはしなかった。
当時、セドリックから
「ジークフリート殿下はランデル王国の王太子。こうして学園に入れていただいているのですから、せめてもう少し、歩み寄りの態度を示すことはできないでしょうか?」と諫められた際も、
「無理だ。あの男は好かん」と一蹴するだけだったのだから。
それに、だ。
(エリスのことはともかくとして、兄上がジークフリートを国内に入れたということは、こいつが俺に害意を持たないと判断したということだ。つまり、ここでこいつと対立するのは、良い選択とは言えない)
アレクシスは色々と考えた末、やむなし――と決断する。
「おい、ジークフリート。俺は今から街に出る。お前も付き合え」
「――街?」
「ああ。お前はさっき、俺から話を聞きたいと言ったな。エリスのことを教えてやるつもりはないが、シオンのことはセドリックに一任している。知りたいことがあるなら、道中セドリックに聞くがいい」



