【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


 するとジークフリートは何を思ったか、アレクシスに薄い笑みを投げかけた。

「――とまぁそういう理由(わけ)で、僕は君がエリス妃と上手くやれているか探りに来たわけだけど……杞憂(きゆう)だったな」

「杞憂、だと?」

 そう聞き返すアレクシスに、ジークフリートは残念そうに目を細める。

「ああ。だってそのシャツの刺繍、エリス妃が入れたものだろう? シオンのハンカチの刺繍も見事だったけど、君のそれは比べ物にならない。時間も手間もかかってる。愛されている証拠だ」

「…………」

 アレクシスは、突然ジークフリートの口から出た『刺繍』というワードに、いったいいつの間にシャツの襟を見られていたんだ? と訝しく思ったが、そう言えば、先ほど邸宅でジークフリートが姿を現した際、自分はまだ軍服のボタンを留めていなかったな――と一人納得する。

「僕はね、舞踏会で君がエリス妃と踊っている姿を見て、すぐにわかったよ。君はエリス妃に好意を抱いているってね。でも彼女の正体にまでは気付いていない。それならまだシオンにも可能性はあるんじゃないかと思って、帝国に送ったんだ。――でも、そうか。シオンは君に負けたんだね。どうりで、いつまで経っても連絡がこないはずだ」

 ジークフリートは、アレクシスにくるりと背を向けると、小さく溜め息をつく。

 その背中は、気のせいである可能性の方が高かったが、何かしらの責任を感じている様に、アレクシスには思えた。

「……お前、まさか後悔してるのか?」

 あるいは、反省か。

 ――だが、ジークフリートは否定する。
 
「後悔? 僕と最も縁遠い言葉だ。ただ僕は、シオンのことを心配しているだけさ。人並みにね」

「――!」