するとジークフリートは何を思ったか、アレクシスに薄い笑みを投げかけた。
「――とまぁそういう理由で、僕は君がエリス妃と上手くやれているか探りに来たわけだけど……杞憂だったな」
「杞憂、だと?」
そう聞き返すアレクシスに、ジークフリートは残念そうに目を細める。
「ああ。だってそのシャツの刺繍、エリス妃が入れたものだろう? シオンのハンカチの刺繍も見事だったけど、君のそれは比べ物にならない。時間も手間もかかってる。愛されている証拠だ」
「…………」
アレクシスは、突然ジークフリートの口から出た『刺繍』というワードに、いったいいつの間にシャツの襟を見られていたんだ? と訝しく思ったが、そう言えば、先ほど邸宅でジークフリートが姿を現した際、自分はまだ軍服のボタンを留めていなかったな――と一人納得する。
「僕はね、舞踏会で君がエリス妃と踊っている姿を見て、すぐにわかったよ。君はエリス妃に好意を抱いているってね。でも彼女の正体にまでは気付いていない。それならまだシオンにも可能性はあるんじゃないかと思って、帝国に送ったんだ。――でも、そうか。シオンは君に負けたんだね。どうりで、いつまで経っても連絡がこないはずだ」
ジークフリートは、アレクシスにくるりと背を向けると、小さく溜め息をつく。
その背中は、気のせいである可能性の方が高かったが、何かしらの責任を感じている様に、アレクシスには思えた。
「……お前、まさか後悔してるのか?」
あるいは、反省か。
――だが、ジークフリートは否定する。
「後悔? 僕と最も縁遠い言葉だ。ただ僕は、シオンのことを心配しているだけさ。人並みにね」
「――!」



