【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


「おい、セドリック。俺は今、いったい何を見せられているんだ?」

 アレクシスはこめかみに青筋を浮かべ、ブルブルと肩を震わせる。
 セドリックはそんな主人を横目でチラリと見やり、冷静な声で答えた。

「それは……まぁ、見ての通り膝枕じゃないですかね」
「ああ、そうだな、膝枕……って、そんなことは見ればわかる! 俺が聞きたいのは、なぜシオン(こいつ)がエリスに膝枕されているのかということだ!」
「そんなこと、私が知るはずないでしょう。――にしても姉弟で膝枕とは、お二人は本当に仲がよろしいのですね」
「仲がいいで済むか! 流石にこれは異常だろう!」

 そう。今二人の前にあるのは、三人掛けのソファの端に腰かけ、静かな寝息を立てているエリス――と、彼女の膝に頭を乗せ、スヤスヤと眠るシオンの姿だった。

(いったいなぜこんな状況に?)

 気になって仕方がないアレクシスは、側に控える侍女をじろ――と見やる。

「おい、いったい何をどうしたらこうなる。説明しろ」

 すると侍女は一瞬肩を震わせて、躊躇うように口を開いた。

「それが……その、アフタヌーンティーの最中、シオン様が突然『ここから学院に通いたいから、殿下を説得してほしい』と言い出されまして」
「――ッ! ……それで?」
「けれどエリス様は、そんなシオン様の発言をお諫めになり……。そしたら、シオン様が……その……」

 そこまで言って、侍女は言葉を濁す。それ程までに言いにくい内容なのだろうか。
 あるいは、アレクシスには聞かせたくないことなのか。

 だがそれでも、最後まで聞かないわけにはいかなかった。

「何だ? はっきり言え」

 アレクシスが圧をかけると、侍女は観念したように口を開く。

「泣いて……しまわれて」
「泣いた? シオンがか?」
「はい。エリス様といられないなら生きる意味はない、とまで仰って。バルコニーから飛び降りようとするものですから、お止めするのが大変でした。その後は、エリス様が必死にシオン様を宥められて……このような状況に」
「…………」