「おい、セドリック。俺は今、いったい何を見せられているんだ?」
アレクシスはこめかみに青筋を浮かべ、ブルブルと肩を震わせる。
セドリックはそんな主人を横目でチラリと見やり、冷静な声で答えた。
「それは……まぁ、見ての通り膝枕じゃないですかね」
「ああ、そうだな、膝枕……って、そんなことは見ればわかる! 俺が聞きたいのは、なぜシオンがエリスに膝枕されているのかということだ!」
「そんなこと、私が知るはずないでしょう。――にしても姉弟で膝枕とは、お二人は本当に仲がよろしいのですね」
「仲がいいで済むか! 流石にこれは異常だろう!」
そう。今二人の前にあるのは、三人掛けのソファの端に腰かけ、静かな寝息を立てているエリス――と、彼女の膝に頭を乗せ、スヤスヤと眠るシオンの姿だった。
(いったいなぜこんな状況に?)
気になって仕方がないアレクシスは、側に控える侍女をじろ――と見やる。
「おい、いったい何をどうしたらこうなる。説明しろ」
すると侍女は一瞬肩を震わせて、躊躇うように口を開いた。
「それが……その、アフタヌーンティーの最中、シオン様が突然『ここから学院に通いたいから、殿下を説得してほしい』と言い出されまして」
「――ッ! ……それで?」
「けれどエリス様は、そんなシオン様の発言をお諫めになり……。そしたら、シオン様が……その……」
そこまで言って、侍女は言葉を濁す。それ程までに言いにくい内容なのだろうか。
あるいは、アレクシスには聞かせたくないことなのか。
だがそれでも、最後まで聞かないわけにはいかなかった。
「何だ? はっきり言え」
アレクシスが圧をかけると、侍女は観念したように口を開く。
「泣いて……しまわれて」
「泣いた? シオンがか?」
「はい。エリス様といられないなら生きる意味はない、とまで仰って。バルコニーから飛び降りようとするものですから、お止めするのが大変でした。その後は、エリス様が必死にシオン様を宥められて……このような状況に」
「…………」



