アレクシスはセドリックを連れて階段を下りながら、ここ一週間のことを思い起こす。
実はアレクシス、演習中自分の仕事がないのをいいことに、こっそり基地を抜け出して港に通っていた。
一週間前にアンジェの街を出て、その二日後に港に辿り着いてからの三日間、第二皇子から渡されたリストの店をひたすら回り、目ぼしい商品を買い漁った。
その後演習が始まってからも、基地から港街までを毎日往復している。
港街までは馬で片道一時間以上の距離があるため、晩餐までに戻ることを考えるとそれほど長くいられるわけではなかったが、演習が終わり次第すぐに帝都に戻りたいアレクシスには、全くといっていいほど気にならなかった。
「今日は射撃演習だったな。三十分もいれば十分だろう。食事が済んだら、馬の準備を整えておけ」
「はい、殿下」
階段を降りきった二人は、ダイニングに向かうべく角を曲がろうとする。
――が、そのときだった。
アレクシスとセドリック、あとは数名のハウスメイドしかいないはずのこの邸宅で、明らかに異質な足音が一つ。
その貴族的な足音に、二人はそちらを振り返る。と同時に、揃いも揃って絶句した。
なぜなら、そこにいたのは――。
「やあ、アレクシス。舞踏会以来だね。元気にしていたかい?」
――と、まるであの日の事件などすっかり気にしていないかのように微笑む、ランデル王国が王太子、ジークフリート・フォン・ランデルだったのだから。



