【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


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 ここ、帝国最南西のロレーヌ基地は、陸海軍合同基地である。
 西の国境ロレーヌ山脈を一部切り取った形の要塞基地で、南側には戦艦用の入り江を持ち、山脈の(ふもと)一体はすべて軍所有の基地及び駐屯地という、帝国内でも最大級規模の基地だ。
 
 面積はおよそ百ヘクタール(東京ドーム約二十個分)。
 基地内には、砲台、指揮所、観測所、弾薬庫、食糧庫、通信施設及び医療施設などが設けられており、第十二師団所属の一万人と、第三海軍旅団所属の二千人、合わせて一万二千人が駐屯する。

 今回、ここに帝都周辺の守りを担当する第一師団の半数にあたる、第一大隊五千人と、ランデル王国その他二ヵ国の軍隊が加わり、総勢四万人での演習だ。
 これは相当な規模である。

 とは言え、アレクシスの役目は殆どなかった。
 演習の指揮を執るのはあくまで帝国軍第一師団長であり、アレクシスではないからだ。

 諸々の準備及び指揮命令、加えてトラブルの収拾まで、全ては第一師団長の仕事。
 当然、アレクシスが現場に入るなどということはない。

 ここに来てからアレクシスがしたことと言えば、初日の挨拶と、晩餐会での接待。あとは、物見台(ものみだい)から演習の様子を見学するくらいなものだ。


(まあ、おかげで港の調査は順調だがな)