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「……ッ!」
――カッ! と瞼を開いたアレクシスの視界に広がったのは、見慣れぬ白い天井だった。
今アレクシスがいるのは、帝国最南西のロレーヌ基地内にある、要人様に用意された邸宅の一室だ。
要人用というだけあって、貴族邸宅と造りの変わらない壮麗な内装。
その大きな窓からは燦々と日が降り注ぎ、演習三日目の朝の訪れを示していた。
つまり、今のは、夢。
「……なんて、夢だ」
アレクシスは両手で顔を覆い、「はぁー」と肺から大きく息を吐く。
一週間前アンジェの宿屋で、セドリックからオリビアの話を聞かされたせいだろう。
夢とは言え、エリスが自分の元を去るなど、考えるだけで吐き気がした。
(一刻も早く帝都に戻り、この腕に彼女を抱き締めなければ。……一ヵ月は、長すぎる)
アレクシスは、起きて早々二度目の溜め息をつき、身支度を整えるためにベッドから立ち上がる。
気分は最悪だが、そろそろ朝食の時間だ。セドリックが呼びに来る頃合いだろう。
すると思った通り、エリスの刺繍入りのシャツに袖を通したところでドアがノックされ、セドリックの声がした。
「おはようございます、殿下。朝食のご用意ができました」
「わかった。すぐに行く」
アレクシスは短く答えると、シャツのボタンを閉めてから、黒い軍服をサッと羽織る。
最後に、思い出したように髪を軽く整えて、セドリックと共にダイニングへと向かった。



