シオンはオリビアを静止する。
するとオリビアは一瞬動きを止めたものの、「手袋? 確かにそうね」と低く呟いて、次の瞬間には、左の手袋を外していた。
温室に降り注ぐ秋の陽光の下、オリビアの左腕が、シオンの前に晒される。
そこにあったのは、手首から甲にかけて、広い範囲にひきつった赤い皮膚。
シオンは、全く予想だにしなかったその傷痕に、言葉を失った。
けれどオリビアは、そんなシオンの態度など気にも留めないという様に、傷跡の残る左手で、地面に落ちた果実を拾い上げる。
その実を収穫籠の中に入れると、脚立の側で立ち尽くすシオンを、憐れむような目で見据えた。
「あなたもそういう顔をしますのね。この傷痕を見ると、殿方はみんな同じ反応をする。――お兄様も」
「……っ」
「この手袋はね、お兄様のためだけに着けておりますの。お兄様が、この傷痕を見るたびに、泣きそうな顔をされるから」
オリビアは諦めたように息を吐くと、まるで罵るような口調で、こう続ける。
「わたくしにとって、この傷痕は『戒め』ですの。二度と間違いを犯さないようにという、強い楔。でも、お兄様にとっては『呪い』でしかない。だからわたくしは嫁ぐんですの。お兄様をこの『呪い』から解放してさしあげるためなら、どんな最低な相手にだって、この身を捧げるつもりでおりますわ」
――だから。
「わたくしたちのことは放っておいて。あなた方がお兄様とどういう関係かは知らないけど、お兄様にもわたくしにも、これ以上関わってはなりませんわ。でないとあなた、後悔することになりますわよ」



