【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


 するとオリビアからは、「そうね」と呆れ声が返ってくる。

「お兄様ったら、(ろく)に調べもしないで植えるんですもの。そういうところが、抜けてるのよ」

 オリビアの話によると、苗木は一メートルにも満たない高さだったらしいが、十年ですくすくと成長し、今のサイズになったという。
 しかも、アボカドは最終的に十メートルを超える高さになるとのことで、この秋を最後に、撤去する予定でいるとのことだった。

「え……抜いてしまわれるんですか? こんなに元気なのに?」
「ええ。お兄様は反対しているけど」
「なら、どうして」

 確かに、これ以上大きくなれば、天井を突き破る心配も出てくるだろう。――が、この温室はまだまだ高さに余裕がある。そんなに急ぐ必要はないのではないか。

 シオンが手を止め、オリビアへ視線を落とすと、オリビアはあっけらかんと答える。

「わたくし、次の冬にデビュタントを済ませたら結婚しますの。他の木はともかくとして、成長過程のこの子は庭師の手にも余るときがくる。だったら、いっそわたくしのいるうちに、と」
「…………」
「一応、温室の外に植え替えることも検討したんですのよ? でも、恵まれた環境で育てられたこの子が、外の気候に耐えられるとはどうしても思えませんの。わたくしの知らぬところで枯れてしまうくらいなら、わたくしの手で終わらせるのが筋というもの」
「……ご自分の……手で……」
「ええ」
「…………」

 瞬間、シオンは悟ってしまった。

 ――ああ……なんだ、と。

(オリビア様はとっくに「覚悟」を決めているんだ。この人は、少しも可哀そうなんかじゃない)