【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


 実はシオン、アボカドの木を見るのはこれが初。というより、食べたことすらない。
 そもそもアボカドは帝国及び周辺諸国では栽培されておらず、出回っているものはすべて輸入品の上、流通量も少ないからだ。

(まさかこんなに大きい木だなんて……)

 茫然とするシオンに、オリビアの指示が飛んでくる。

「何を呆けているんですの? さっそく収穫を始めますわよ。脚立と(ハサミ)、それと収穫籠はあの倉庫にありますわ。鍵は開いているから、取ってきてくださる?」

「――あ、……はい。もちろんです」

(確かに、この高さだと脚立は必須だろうけど……僕、部屋の灯りの掃除くらいでしか使ったことないんだよな)

 地面から手を伸ばして収穫するものかと勝手に想像していたシオンは、やや心配に思いながら、室内倉庫へと走った。

 脚立と鋏、収穫籠を拝借し、収穫作業に取り掛かる。

 と言っても、作業自体は至極簡単で、適度な大きさに育ったアボカドの実を鋏で切って、下で待つオリビアに手渡していくだけだった。

(良かった。これくらいなら、問題ない)

 シオンは鋏でアボカドの実を枝からパチンパチンと切り離しながら、オリビアに話を振る。

「――にしても、アボカドの木って随分大きくなるんですね? 温室で育てるサイズを超えているような気がしますが……」