シオンは言いながら、エリスの皿をチラリと見やり、眉をひそめた。
サンドイッチが一口も減っていないことに気付いたのだろう。
つまりシオンはエリスの体調不良を懸念したわけだが、エリスの「少し考え事をしてしまっていたみたい」という答えを聞くと、疑いの目を寄こしつつも、フォローを入れてくれる。
「これからアボカドを収穫しにいこうって話してたんだ。そろそろ収穫時期だから、僕らに分けてくださるって。オリビア様が」
「ええ。アボカドは栄養価が高く『森のバター』とも呼ばれておりますの。貧血予防以外にも、色々とお勧めですのよ」
「――!」
まさか、考え事をしている間にそんな話になっていたとは……。
エリスが「よろしいのですか?」と隣のリアムを見上げると、リアムは「どうせ食べきれませんから、お好きなだけ」と笑みを浮かべる。
そんな経緯で、オリビアとシオンは席を立ち、
「では、少々席を外しますわね」
「リアム様。少しの間、姉さんをよろしくお願いします」
と言い残すと、温室の奥へと消えていった。
こうして、さっきまでの賑やかさが嘘のように、辺りが静寂に包まれた――そのときだ。
不意に、リアムが独り言のように呟いた。
「ありがとうございます、エリス様」と。
「……え?」
その声に、エリスはゆっくりと隣を振り向く。
すると、リアムのラベンダーブラウンの瞳が、じっとこちらを見つめていた。
「……リアム、様?」
その瞳は、先ほどオリビアを見つめていたときのように、どこか憂いを帯びていて。
穏やかで、優しくて、けれど、とても寂し気で――。
見つめられるだけで、まるで泣いてしまいそうになる……そんな色。



