【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


 シオンは言いながら、エリスの皿をチラリと見やり、眉をひそめた。
 サンドイッチが一口も減っていないことに気付いたのだろう。

 つまりシオンはエリスの体調不良を懸念したわけだが、エリスの「少し考え事をしてしまっていたみたい」という答えを聞くと、疑いの目を寄こしつつも、フォローを入れてくれる。

「これからアボカドを収穫しにいこうって話してたんだ。そろそろ収穫時期だから、僕らに分けてくださるって。オリビア様が」
「ええ。アボカドは栄養価が高く『森のバター』とも呼ばれておりますの。貧血予防以外にも、色々とお勧めですのよ」

「――!」

 まさか、考え事をしている間にそんな話になっていたとは……。

 エリスが「よろしいのですか?」と隣のリアムを見上げると、リアムは「どうせ食べきれませんから、お好きなだけ」と笑みを浮かべる。

 そんな経緯で、オリビアとシオンは席を立ち、

「では、少々席を外しますわね」
「リアム様。少しの間、姉さんをよろしくお願いします」

 と言い残すと、温室の奥へと消えていった。


 こうして、さっきまでの賑やかさが嘘のように、辺りが静寂に包まれた――そのときだ。

 不意に、リアムが独り言のように呟いた。


「ありがとうございます、エリス様」と。

「……え?」

 その声に、エリスはゆっくりと隣を振り向く。
 すると、リアムのラベンダーブラウンの瞳が、じっとこちらを見つめていた。


「……リアム、様?」


 その瞳は、先ほどオリビアを見つめていたときのように、どこか憂いを帯びていて。
 穏やかで、優しくて、けれど、とても寂し気で――。

 見つめられるだけで、まるで泣いてしまいそうになる……そんな色。