【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


(きっと姉さんは、僕が二人の邪魔をしようと思っていることなんて、少しも気付いていないんだ)

 そう思うと、途端に罪悪感が込み上げてくる。
 だがそれでも、今のシオンの中に『エメラルド宮を出ていく』という選択肢は存在しなかった。


 ――急におとなしくなったシオンを心配したのか、エリスはティーカップをソーサーに置き、小さく首を傾げる。

「シオン、どうしたの? あなた最近、よくそういう顔をするわね。何か悩み事があるなら、話してくれていいのよ? わたしじゃ頼りなければ、殿下に相談しても――」
「――ッ」

 するとシオンは、ハッと一度は顔を上げたものの、再び視線を手元に落としてしまった。
 何か考えている顔だ。

 実際シオンは、今ここで言うべきか、言わざるべきか、悩んでいた。
 ――が、数秒考えたのち、決意したようにエリスを見据える。

「じゃあ、一つ。お言葉に甘えて……いいかな?」

 いつになく真剣な表情の弟に、エリスは少しばかり違和感を覚えたものの、「もちろん」と微笑む。
 すると、シオンは躊躇いがちに唇を開き――、

「僕、これからも今みたいに、ずっと姉さんと暮らしたい。寮には入らずに、ここから学院に通いたいんだ。だから、お願い、姉さん。一緒に、殿下を説得してくれない?」

 ――と、(すが)るような声で告げたのだった。