(きっと姉さんは、僕が二人の邪魔をしようと思っていることなんて、少しも気付いていないんだ)
そう思うと、途端に罪悪感が込み上げてくる。
だがそれでも、今のシオンの中に『エメラルド宮を出ていく』という選択肢は存在しなかった。
――急におとなしくなったシオンを心配したのか、エリスはティーカップをソーサーに置き、小さく首を傾げる。
「シオン、どうしたの? あなた最近、よくそういう顔をするわね。何か悩み事があるなら、話してくれていいのよ? わたしじゃ頼りなければ、殿下に相談しても――」
「――ッ」
するとシオンは、ハッと一度は顔を上げたものの、再び視線を手元に落としてしまった。
何か考えている顔だ。
実際シオンは、今ここで言うべきか、言わざるべきか、悩んでいた。
――が、数秒考えたのち、決意したようにエリスを見据える。
「じゃあ、一つ。お言葉に甘えて……いいかな?」
いつになく真剣な表情の弟に、エリスは少しばかり違和感を覚えたものの、「もちろん」と微笑む。
すると、シオンは躊躇いがちに唇を開き――、
「僕、これからも今みたいに、ずっと姉さんと暮らしたい。寮には入らずに、ここから学院に通いたいんだ。だから、お願い、姉さん。一緒に、殿下を説得してくれない?」
――と、縋るような声で告げたのだった。



