【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


 そもそも、エリスの結婚は国同士が決めたことであり、そこにエリスの意思はなかった。
 それに、式当日のアレクシスとの初夜は『最悪だった』と言わざるを得ない。

 それでも、当時のことを思い出しても胸が痛まなくなったのは、アレクシスを愛するようになったからだ。
 エリスとアレクシス、双方が歩み寄り、良好な関係を築くことができた結果、今がある。

 だがそれだって、一つでもボタンを掛け違えれば、今のような関係は築けていなかった。

 シオンが帝国に招かれることもなかったし、女嫌いのアレクシスとの間に、子供ができることもなかったはず。

(わたしが今幸せなのは、殿下の愛を信じられるからだわ。それに今のわたしには、シオンやマリアンヌ様がいてくれる。でもオリビア様は、これから家族と離れて、お一人で嫁がなければならない)

 そう思うと、エリスはどうしようもなく胸が痛んだ。

(せめて、お相手の子爵様がよい方であるといいのだけれど)

 ――そう願った、そのときだ。


 不意に、「姉さん?」と名前を呼ばれて顔を上げると、心配そうな顔のシオンと視線がぶつかる。

「……シオン」

「大丈夫? さっきからずっと上の空だけど」

 いけない。どうやら思考をトリップさせていたようだ。

「もし具合が悪いようなら――」