そもそも、エリスの結婚は国同士が決めたことであり、そこにエリスの意思はなかった。
それに、式当日のアレクシスとの初夜は『最悪だった』と言わざるを得ない。
それでも、当時のことを思い出しても胸が痛まなくなったのは、アレクシスを愛するようになったからだ。
エリスとアレクシス、双方が歩み寄り、良好な関係を築くことができた結果、今がある。
だがそれだって、一つでもボタンを掛け違えれば、今のような関係は築けていなかった。
シオンが帝国に招かれることもなかったし、女嫌いのアレクシスとの間に、子供ができることもなかったはず。
(わたしが今幸せなのは、殿下の愛を信じられるからだわ。それに今のわたしには、シオンやマリアンヌ様がいてくれる。でもオリビア様は、これから家族と離れて、お一人で嫁がなければならない)
そう思うと、エリスはどうしようもなく胸が痛んだ。
(せめて、お相手の子爵様がよい方であるといいのだけれど)
――そう願った、そのときだ。
不意に、「姉さん?」と名前を呼ばれて顔を上げると、心配そうな顔のシオンと視線がぶつかる。
「……シオン」
「大丈夫? さっきからずっと上の空だけど」
いけない。どうやら思考をトリップさせていたようだ。
「もし具合が悪いようなら――」



