エリスはふと、三日前のシオンの言葉を思い出す。
リアムから届いたお茶会の招待状を読み終えたシオンは、こんなことを言っていた。
「なるほどね。もしこれが本当なら、僕もオリビア様をお慰めして差し上げたいと思う。助けてもらった恩もあるわけだし。でもこれ、やっぱり違和感があるよ」
「違和感?」
「だって、オリビア様は侯爵家の令嬢だろう? なのに相手が子爵家っていうのは、どう考えても釣り合いが取れてない。帝国貴族の侯爵家の出なら、その辺の小国の第二、第三王子に嫁いだっておかしくない身分なのに」
「それは、確かにその通りね」
「まあ、きっとそれなりの理由があるんだろうけどさ」
そこで話は終わってしまったが、エリスはその後もずっと考えていた。
シオンの言った『それなりの理由』とは何だろう、と。
二回りも年の離れた子爵に嫁がねばならないのは、なぜなのだろうかと。
だが、当然答えなど出るはずもなく、そのようなプライベートな内容を、直接尋ねるわけにもいかない。
(それに、結婚はもう決まったこと。今さら周りが色々言ったって、不愉快な気持ちにさせるだけ。……それでも気になってしまうのは、きっと彼女の今の立場が、昔のわたしに似ているからね)
自分は、リアムやオリビアと親しい間柄でもないし、まして親戚でもない。
だから、オリビアの結婚に口出しできる立場ではない。
それでも考えるのをやめられないのは、自分も望まない結婚をしたからだ。
(今でこそ、殿下との仲は良好だけれど……)



