【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜

 エリスが自戒している間に、紅茶の準備が整ったようだ。
 オリビアの手によって四人分の紅茶が運ばれたところで、アフタヌーンティーの開始である。


 エリスはさっそく、オリビアに先日の礼を述べた。

「オリビア様、先日は本当にありがとうございました。オリビア様があの場にいてくださって、とても助かりました。弟共々、深くお礼申し上げますわ」

 未だニコリともしないオリビアの警戒心を解くべく、エリスは柔らかに微笑んでみせる。
 するとオリビアは一度は驚いたように目を見開いたものの、すぐに真顔に戻ってしまった。

「いいえ、礼には及びませんわ。当然のことをしたまでですもの。それより、その後お加減はよろしくて?」
「はい、ただの貧血でしたので……。おかげさまで、すっかり良くなりましたわ」
「そう、それは何よりですわ。でも貧血を甘く見てはいけませんのよ。血液が薄くなると全身の臓器の機能が衰えますから。予防のためには、肉類やほうれん草、あとは海藻類などを召し上がるとよいですわね」
「……!」

 エリスは驚いた。

 お礼の言葉は本音に違いなかったが、まさか手始めに振った社交辞令的な言葉に、中身のある返しをしてもらえるとは思ってもみなかったからだ。

(先日助けてくださったことといい、オリビア様って表情には出されないだけで、とてもお優しい方なんだわ。それにオリビア様の助言、お医者様が仰っていたことと、ほとんど同じ)

 エリスがシオンをチラリと見やると、シオンも同じことを思ったようで、エリスの「オリビア様はとても博識でいらっしゃるのね」という言葉に、援護射撃を始める。

「オリビア様は医学に精通されているのですね。姉さんが倒れたときも、脈と呼吸を的確に判断してくださいました。あのときは僕、とても気が動転していて。だからオリビア様が声をかけてくださって、本当に心強かったんです」