一通りの挨拶を終え、着席したエリスは、お茶を注ぐオリビアの様子を伺いながら、先ほどのリアムとのやり取りを思い出す。
実はエリス、この屋敷に到着した際、出迎えがリアムだけだったのをいいことに、『正体を明かす』提案をしていた。
「リアム様。わたくし、この三日間考えたのですが、オリビア様に正体を明かすべきかと思いまして」と。
それはエリスなりの誠意だった。
そもそも、エリスがシオンの提案を受け、正体を偽ったのは、オリビアがリアムの妹だと知らなかったからだ。
どこの誰ともわからない相手に、皇子妃であることや、妊娠している事実を知られては、どんな風に噂が広まってしまうかわからないから。
けれど、オリビアはリアムの妹だった。
つまり、リアムに正体を知られてしまっている時点で、オリビアに隠し通す意味はないということになる。
――エリスは、温室へ続く外廊下をリアムと並んで歩きながら、こう続けた。
「リアム様は、わたくしに『オリビア様の友人』になってほしいと仰いました。でしたら、それがたとえ期間限定の友人だとしても、隠し事は少ない方がいいのではありませんか?」
「……っ」
エリスの言葉に驚いたのか、リアムはピタリと足を止める。――が、二、三秒思案して、ゆっくりと首を振った。
「申し出はありがたいのですが、やはり、正体は伏せておいていただけますか? 身勝手な言い分で申し訳ないのですが、オリビアは気が強そうに見えて、中々に繊細なのです。もしあなたが帝国貴族の中心にいる皇子の妃だと知れば、オリビアは心を開かないでしょうから」
「……!」
「ですが、そのご温情はしかと受け賜りました。このような無礼なお願いにも関わらず、それほどまで深く私たちのことを考えてくださり、感謝の言葉もございません。本当に、ありがとうございます」
(――まさか皇子妃相手だと心を開いてもらえないだなんて……盲点だった)



