【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


「参加の返事を出したって……でも姉さん、まだ悪阻があるだろう? 途中で気分が悪くなったらどうするんだよ」
「もしそうなったらすぐに退席するわ。それに、気分が悪くなる原因が悪阻だとわかってからは、あまり辛くないのよ。お医者さまも、無理をしなければ外出も構わないと仰っていたし」
「……それは、そうかもしれないけど」

 シオンはとても不安になった。

 体調のことは勿論だが、正体を隠して会うということは、別人になりきらねばならないということだ。
 自分ならともかく、果たしてエリスにそのような器用なことができるだろうか。

(姉さんに商家の夫人なんて役が務まるのか? そもそもは僕が言い出したこととはいえ……もの凄く不安だ)

 それに何より、正体を隠して友人になるなど、不誠実極まりないではないか。
 もしやエリスは、正体を明かす心づもりなのではないだろうか。

(姉さんの性格なら、十分あり得る)

 ――が、今聞いてもきっとエリスは答えないだろうし、返事を出してしまったものはしょうがない。
 それに、反対されるとわかっていた……と言うくらいだから、それなりの覚悟があるということなのだろう。

(まあ、正体が知られたとしても、最悪妊娠のことだけ隠し通せれば……)