【完結】ヴィスタリア帝国の花嫁Ⅱ 〜婚約破棄された小国の公爵令嬢は帝国の皇子に溺愛される〜


 唐突に突いて出たセドリックの言葉に、アレクシスは眉をひそめる。

「守っていただと? リアムが、俺を?」

「はい。二年前のあの日、リアム様は『他言無用だ』と仰ったのですよね? 実際その言葉どおり、オリビア様の怪我について噂は何一つ立たなかった。それは、リアム様がルクレール侯爵閣下にさえ、真実を隠し通してくださったからにほかなりません。もしも侯爵閣下に真実が伝わっていたら、殿下は閣下からの圧力で、オリビア様と無理やりにでも結婚させられたか……あるいはそれを断れば、閣下は殿下のみならず、皇室ごと訴えるくらいはしたでしょうから」
「……っ」
「そうならなかったのは一重に、リアム様が殿下を庇ってくださったからだと、私は思います。オリビア様との結婚を迫ってきたことについては、まぁ、オリビア様を思う兄心だったのでしょうが……」

 言葉を失ったアレクシスの顔色を伺いながら、セドリックは諭すように続ける。

「帝都に戻ったら、一度、リアム様とお会いになられてはいかがでしょう? 謝罪するかは別として、きちんとお話されるべきかと存じます。そうでなければ……」

「……そうで、なければ?」

 絞り出すような声で問うアレクシス。
 セドリックはそんな主人を見据え、静かに告げる。

「二年ぶりの再会で、突然『オリビア様を娶るつもりはない』などと言われたリアム様の心は、どこに向かえばいいのかわからなくなってしまうでしょう?」