とはいえ、もしリアムが素直に、オリビアを傷物にした責任を取れ、と迫ったところで、アレクシスは間違いなく受け入れなかっただろう。
オリビアは侯爵家の令嬢だ。
痕が残るほどの怪我といっても、手袋で隠せるくらいの程度なら相手には困らない。ルクレール侯爵家と縁を結びたがっている貴族は、ごまんといるのだから。
つまり、たとえ強く出たとしても、「そんなに言うなら、別の相手を用意してやる」と返されるのが関の山。リアムだってそれがわかっていたから、敢えて控えめな言い方に終始したのだろう。
それに、話を聞く限り、火傷の件は事故である。
オリビアを突き飛ばしたアレクシスには当然責任があるが、アレクシスの女嫌いを知りながら、腕を掴んだオリビアにも同じだけ責任がある。
基本的にアレクシスびいきのセドリックは、今の話を聞いてそう判断した。
(……にしても、これでようやく話が繋がった)
セドリックは、三ヵ月前の建国祭のことを思い出す。
それはアレクシスがエリスとのデートの為に本部を離れ、一時間が過ぎたころのこと。
本部に「川に子供が二人落ちた。それを助けようと、ご婦人と共にルクレール中尉が川に飛び込んだ」との一報が入り、セドリックは海軍兵数名を引き連れて急ぎ現場へと向かった。
だが、到着したときには全てが終わったあとだった。
現場の兵士たちによれば、子供は二人とも救助され、命に別状はない。今は近くの救護所で手当てを受けているとのこと。
けれど、安心したのも束の間、続けざまに語られた内容に、セドリックは唖然とすることになる。
なんと、子供を救助した婦人というのが、エリスだというのだ。
救助活動を終えたエリスとリアムの元にアレクシスが現れ、リアムに「俺の妃に手を触れるな」と牽制したことで、周りはエリスの正体に気付いたと。
更にアレクシスは、「オリビアを妃に迎えるつもりはない。よく覚えておけ」などと言い残していったという。



