二年前ならばいざ知らず、エリスと心を通わせた今のアレクシスが、他でもない『火傷の痕』のせいで子爵家に追いやられるオリビアの存在を無視できるとは、セドリックには到底思えなかった。
だからセドリックは、この機会にどうしても確かめておかねばと、こうして話しているのだ。
もしオリビアが子爵家に嫁いでしまった後になって『火傷の痕』のことを知ったなら、アレクシスはきっと後悔することになるだろうと、そう考えたから。
――セドリックは、じっとアレクシスの言葉を待つ。
するとしばらくして、ようやく、アレクシスは観念したように口を開いた。
「……俺のせいだ」と。
黄金色の瞳に後悔を滲ませながら、アレクシスはぽつりぽつりと話し出す。
「オリビアに火傷を負わせたのはこの俺だ。……二年前のあの日、紅茶の味に違和感を覚えた俺は、すぐに茶会を退席したんだが――」
アレクシスが話した内容はこうだった。
紅茶に薬が盛られていることに気付いたアレクシスは、すぐに茶会を中断し、執務室のソファで休んでいた。
すると薬の効果か、いつの間にかうたた寝をしてしまい、気付いたときには、部屋の中にオリビアがいたという。
「お前、いったいここで何をしている? 入室を許可した覚えはないぞ。今すぐ出ていけ」
眠気の残る気だるい頭で、アレクシスは厳しい言葉を投げつける。
けれどオリビアは、臆することなく無邪気に微笑んだ。
「ノックしてもお返事がないから、心配しただけですのに……。にしてもその様子では、王女様方とのお茶会は上手くいかなかったようですわね。わたくしとしては、願ったり叶ったりですけれど」
オリビアはそう言いながら、いつの間にか運び込んでいたティーワゴンでカップにお茶を注ぎ、アレクシスに差し出した。
「ねえ、殿下? そろそろわたくしを受け入れてくださってもよろしいんじゃありません? わたくしほど殿下の女性嫌いを理解している女はいませんわ。それに側妃の一人でも娶れば、煩わしい縁談からも解放されるかと」
「…………」



