シオンが予定より早く帝国にやってきたのは、エリスとアレクシスを別れさせたいがためだった。
冷酷無慈悲として悪名高い帝国の第三皇子。そして、過去に五回もの婚約を破談にしたほどの大の女嫌い。
でありながら、ランデル王国に初恋の女性がいるというアレクシスの魔の手から、姉を解放しなければと。
そのために、まずは内情を探らねば――そう考えたシオンは、アレクシスのいない時間帯を狙ってエリスを訪ね、宮に泊めてもらえるよう誘導した。
と同時に、「お世話になる人たちの名前を憶えたい」と言って、エリスから使用人のリストをもらい、徹夜して頭に叩きこんだ。
翌日からは、使用人たちと親密になるため奔走した。
仕事を手伝い、愚痴や悩みを聞き、彼らの主人であるアレクシスとエリスを褒め称えた。
そうして使用人たちが自分をすっかり信用したところで、アレクシスの情報を聞き出すつもりでいた。
だが、それよりも早く、シオンは気付いてしまったのだ。
エリスがアレクシスを好いていることに。
そしてまた、アレクシスもエリスを愛しているということに。
(帝国では『離縁』が認められている。だから、殿下さえ納得させることができれば、姉さんを取り戻せるはずだったのに……)
三ヵ月前の舞踏会のときは、二人の間に今のような信頼感は生まれていなかった。
少なくとも、エリスはアレクシスに、それほど好意を抱いているようには見えなかった。
だからシオンはあの日、堂々とアレクシスに牽制したのだ。「姉を返せ」と。
それなのに、この三ヵ月の間にいったい何が起きたのか。
本命がいるはずのアレクシスはどこまでもエリスを大切にしているし、エリスがアレクシスに向ける微笑みはまさに、『愛する夫』へ向けるそれである。



