幽霊のカノジョ

「生まれるべきじゃなかった」

彼女はよくこの言葉を口にする。
何年も付き合いがあるわけではないが、
聞き慣れたものだ。

彼女にとっての日常は、
まるで無数に流れる雲のようだ。
一見、感じの良い言葉に聞こえるかもしれないが、
そうではない。
たまたま自然の摂理によって生まれ、
形は今一つはっきりとせず、
だらだらと空を泳ぐ。
生まれてきたこの姿に
特に意味もなく名前をつけたり、何かに喩えたりする。
それが彼女にとっての日常。
ただ、その日常は緩やかばかりではなく、
風が強い日もあれば、雨が降る日もある。
というか、晴れた日なんか滅多にないだろう。
消化されない不平不満は、
タバコの煙と共に空へ吐き出され、
灰皿に積まれた吸い殻が物語っている。
それらを踏まえれば、
彼女の言葉には何の違和感もない。


そして、僕の空も絶賛大雨警報中。
新調したばかりのスマホを落とし、
画面に蜘蛛の巣が住み着いてしまったからだ。
悪天候な二人が隣り合わせで歩いていると
目の前で大災害でも起きてしまいそうで、
ヒヤヒヤする。
僕は、この彼女の何とも言えない怠惰に
親しみを感じ、惹かれていった。

そんな浮かれたことを考えながら
「僕も」と答える。
その後は、二人で
「早く死にてぇな」
そう言うことまでが、
僕たちのお決まり。

最近、僕の空に
気だるそうな雲一つと晴れが増えた。