長い、入学式は長い。式典そのものが長い。簡易なものにすればいいのにと思う。

「以上をもちまして、入学式を終了とさせていただきます。」

はーあ、長かった、本当に。

入学式が終わったからといって、このブルーな気持ちは変わらない。

新しい学校でこれから3年間を過ごしていくことに気が重い。

理由は明確で単に人間関係が不安、、、というより面倒だからだ。友達なんて作ろうとも思わない。できる限り存在感のないように過ごしたい。そう思っていたのに、隣の席の女子から話しかけられた。

「あ、あの、、、。」

無視することは心が痛むので当たり障りのないように、ある程度の壁を設けて話す。

「なにか?」

「あの、わたし笹野朱理(ささの しゅり)です。よろしくお願いします。」

笹野さん、小柄で守ってあげたいって思う可愛らしい女の子。目がくりくりでボブが似合ういかにもモテそうな女の子だ。

「初めまして、わたしは篠原真冬(しのはら まふゆ)です。こちらこそよろしくお願いします。」

「篠原さんってすごくきれいです!」

そんなこと初めて言われた。

「あ、ありがとうございます。笹野さんこそ小動物みたいで可愛いと思います。」

「えっ!あっ、ありがとう。嬉しいです。」

そう言ってにこって笑う顔がとっても可愛らしかった。

そのあと、いくつか話を交わしていると、担任教師が教室に入ってきた。

「みなさん、こんにちは。僕の名前は飛田祐翔(とびた ゆうと)です。今日から1年間、担任を務めさせていただきます。よろしくお願いします。」

わたしのクラスの担任は生徒から人気のある国語の教師らしい。27歳、彼女募集中とのこと。

今後の予定の話を聞いて、今日は終わり。下校だ。

「今日はこのくらいで終わりましょう。何か聞きたいことのある人いたらホームルーム終わった後、個別に聞きに来てください。また明日ねー。」

なんとなく緩さのある教師だから親しみやすくて人気があるのだろうと思った。

さてと、帰ろう。わたしは寄り道せず、帰宅するつもりでいた。

しかし、今ここでクレープを食べている。笹野さんに連れられて。

「んん~、美味しい!しあわせ♡篠原さんのも美味しい?」

「うん、美味しい。」

普段、自ら進んで甘いものを食べようとはしないけれど、甘いものは好き。

「篠原さんが甘いもの好きなんてびっくりだよ。誘ってよかったあ。一緒に来てくれてありがとう。」

まだ出会ったばかりだから笹野さんのことよく知らないけれど、いい子なのだろうと思う。笹野さんとなら仲良くなれる気はするけれど、わたしは上手く付き合っていけるだろうか。

「この高校で初めての友達が篠原さんでよかった。あ、勝手に友達って言っちゃった、、、えへへ。」

わたしのことをともだち、、、そう思ってくれる人がいるんだ。

中学の時は、人と関わるのを拒絶してた。中学校は地域の中で集められた人たちの集まりで、価値観の合う人がいなかった。だから、人に合わせるのに疲れて、しまいにはなるべく人と関わらないように過ごしてきた。当然、友達はいなかった。

生まれて初めて、価値観が合いそうで共に時間を過ごすに当たって気楽にいられそうな人に出会った。これを友達と呼んでいいのだろうか。

「わたし、笹野さんと友達になりたいです。」

「ほんと!?、、、というかわたし勝手にもう友達だと思っちゃってたよ。これからよろしくねっ。」

「こちらこそよろしくお願いします、笹野さん。」

「あと、敬語じゃなくていいよ。むしろ敬語じゃないほうがいい!それと、わたしのこと朱理って呼んで!」

「わ、わかった。しゅ、朱理ちゃん、、、。」

は、恥ずかしい。

「わたしは真冬ちゃんって呼ぶね!」

こうしてわたしの高校生活は幕を上げた。