ポヨポヨな彼の正体を突き止めたいのですが?!

私のドキドキ返して!



って思うこと無いですか?



満員電車で下に荷物置かれて足の置き場が無くなった時、電車のブレーキのせいで倒れそうになる。



それを上手くキャッチしてくれるイケメンがいたら、ドキドキするでしょ?



そんな恋愛スタートの雰囲気なのに、彼の真横にそれは非の打ち所がない美女がいる。



「大丈夫ですか? よかったらこちらの方に」



しかも、その女性の方までとても優しく声かけてくださるときた。



二人に少しスペースを作ってもらい、倒れないような体勢を作る。



やっとまともに立てたのも束の間、荒い運転のせいで彼の懐に潜り込んでしまった。



もう、苦笑いするしかない。



嫌な顔を全くしない二人になぜか申し訳なくて降車駅ではないところで降りてしまった。



すかさず電話がかかってくる。



「みうちゃん! さっきのどういうこと?」



宙斗だ。恒例のバスからの観察を欠かしていないようだ。



この路線は、バスと並行に走る所がある。



それをいいことに、私を見つけて観察するのが彼の癖。



初めの頃はストーカーじみていてこわかった。



ここまで続くと当たり前になっているんだから人って慣れが1番怖い。



「下に荷物置いてる人がいて、身動き取れずに倒れそうになったところをカップルに助けてもらっただけ」



できるだけカップルを強調するように話した。



「そうだったんだ。ごめん、なんかすごいいい雰囲気だったからさ」



電話の声と、宙斗の声が別の方からも聞こえてくる。



正面を見ると、宙斗がスマホをブンブン振りながら立っていた。



思わずつられてこっちも手を振ってしまう。



「ここからなら、一緒に歩いても行けるかなって」



「二駅もあるんですけど…」




「そこは気力で乗り越えるのはナシデスカ?」



「なぜカタコト? ま、ゆっくり行きますか」



ものすごく嬉しそうにしているのが少し先に行く背中から伝わってくる。



耳が赤くなっている。



見えないけどきっと私もだ。



周りが忙しそうにしている中を並んで歩く。



「そうだ、ご褒美決まった?」



「ひぇっ??!!」



宙斗が変な甲高い声を出した。



「ほら、この前少し考えさせてって言ってたヤツ」



「あ、そ、そうだね」



右手と右足が同時に出ている。



さっきの話題は地雷だったかな?



壊れたロボットのように歩いている。



「ごめん、まだだったらいいの。全然いつでもいいから」



「ありがとう。みうちゃんとしたい事、たくさんありすぎて決まらないんだ……」



「ちなみに何個ぐらいあるの?」



「この前、書き出してみたんだ」



「そう。いくつ?」



「言わなきゃダメですか?」



なんとなく聞かないほうがいいような気がしてきた。



「まさかとは思うけど、1000個とかは無いよね?」



「……」



図星だったのか、宙斗が固まっていた。