ポヨポヨな彼の正体を突き止めたいのですが?!

初講義スタートまであと20分。


それでも学生はまばらだ。


ねえ、どうして?


キミは当たり前みたいに隣りに座っている。


おかげさまで、私たちの周りは空席だらけ。


「昨日、あれから大変だったんだよ。陸上部にサッカー部に、ラグビー部にいろんなとこから勧誘うけて……」


「あのさ、これなに?」


「これって?」


「何で普通に私に話しかけてるの?」


「友達だから」


「なった覚えないですけど」


「そっか、またカレカノになりたいんだ」


「そんなワケないでしょう!」


「こんなに魅力的なのに?」


ん?


ん?


今、コイツ自分で魅力的と言った。


「具体的に教えて」


「まず、背は高め。プニプニな触り心地。優しい瞳のジェントルマン」


こっち向いて微笑んだ。


砂吐きたい。


どこをどうしたら魅力的に見えるのかさっぱりわからない。


照れながら、短いブラウンヘアーをかきあげているが、どう見てもダメだ。


キュンとも、ドキッともせず、まるで穏やかな海のような気持ち。


いや、長年の修行を終え、悟りを開いたような気分。


昔から自信過剰なとこはあったと思う。


うん、私と比べてすごく自信家。


中学の時、英会話のテストがあって全然しゃべれなかった。


すごく落ち込んでたら、宙斗はこう言った。


「僕なんか、ペラペラだよ。聞く? アイ アム ア ペン。ね、凄いでしょ?」


思わず笑っちゃって、それから少しずつ話すようになったんだっけ。


元気付けてくれてくれたのかなって感謝した。


でも、それはすぐに撤回。


英会話の追試テストは、宙斗だけだった。


ワザとじゃなかった。


もし、あの時。


私のためにしてくれたことだったら。


私はどうしてたかな?


「あ、先生来たよ」


授業は期待してたほどではなく、高校の数学の復習を淡々としていた。


なんか拍子抜け。


必須科目なのに、人数も少ない。


出席を取らない授業だってみんな知ってるのかな?


知ってたら、私も来たくなかったな。


頭がボーッとしてくる。


時間が過ぎるのが遅い。


1分が1時間に思える。


授業が終わっても、横にいるキミが話しかけてくるだろう。


さっさと片付けて次の教室に行こう。


うっとうしいキミとはおさらばだ!


次こそは、イケメンの横に座って。


「ここの席、よろしいですか?」


「どうぞ。俺、〇〇。よろしく」


「私、神崎みうです」


「みうって、呼んでいい?」


「もちろんです」


この返答は却下。


がっついてるってカンジ。


「そんな、恥ずかしいです(頬赤らめて)」


これ、いいんじゃない?


脳内妄想絶好調!


「神崎さんってより、みうのほうが呼びやすいのになぁ」


ああ、イケメンのふてくされ顔、最高です!


「……〇〇さんだけですからね、そんなこと許すの」


いや、これはやりすぎかな?


ここはやっぱり。


「じゃあ、みうでいいです」


「『で』なの?」


クスッと笑うイケメン。


「え?」


「みうがいいんじゃないの? そう思ってくれたら嬉しいな」


「何も変わらなくないですか?」


「『で』だと、妥協してるみたい。『が』だと、そう呼ばれたいって気持ち入ってるでしょ?」


私の気持ち。


うんうん。


呼ばれたい!


イケメンに「みう」って呼ばれたい!!


「ねえ、みう! よだれたらしてないで、次の教室行こう」


急に現実に引き戻される。


ああ、なんとも無情なことよ。


「あの、私に構わずどうぞお先に」


「なんで? 次も必修科目だから一緒だよ? 僕と一緒なら、おトクだよ」


この2日間でトクしたことなんて何にもないですが。


むしろマイナス!!


アンタに対抗する体力も精神力も限界なの。


と、大声で叫ぶ気力も無いのが現状。


宙斗は、なぜおトクなのか聞いて欲しそうにしている。


めちゃくちゃ蔑むような視線で彼を見てやったが、効き目無し!


ぽっちゃりして、神経まで100倍太くなったかも。


せっかくの私の視線は、ポヨンポヨンの体に吸収されて嫌味も全く通じない。


私が聞き返さないから、ソワソワし始めた。


あー、もう!


「おトクって?」


「だって、次は僕の大得意な英語!!」


「うん、あんた、英会話追試なってたよね」


「エゲレスに何年いたと思ってんの? さらにペラペラになってるんだよ?」


エゲレスって言ってるヤツを信用できるわけない。


お願いです。


江戸時代の言葉を使う前に、英語を使ってください。


とにかく、反撃する元気もなく、タブレットを操作している宙斗に聞く。


「次、どこの教室?」


「あれ? ここだよ?」


「ん? 移動じゃなかったっけ?」


宙斗が、ガタガタ震え始めた。


「次がここ」


「さっきの授業は?」


「さっきの必須の授業が7O(ナナオー)になってる」


ここは、2D(二ディー)教室。


さっきの授業は何だったんだろう。


「何で気付かないの!! もう、欠席1になっちゃった」


「ごめん。みうちゃんいたから、安心しちゃって」


「バカ!」


私も確認しなかったの悪いけど。


「でも、ほら、あの先生の数学わかりやすかったよね? いい授業だった」


「つまんなかった!」


「もう一つ、おトクなことがあるよ」


「何?」


「移動しなくてすんだよ」


もう、何も言えない。


たくさんの生徒たちがどんどん入ってきて次々と席が埋まった。


いわずもがな。


私たちの周りだけ、キレイに空席だ。