ポヨポヨな彼の正体を突き止めたいのですが?!

朝の電車が止まってしまった時の絶望感と開放感の入り混じった気持ちが全身を駆け巡る。



それは、時間がたつにつれ諦めと遅刻してもいいという許されたチケットを手に入れたような気分だ。



ホームはあふれんばかりの人だかりだった。



かき分けて無理やり前に行く人に押されてたおれそうになる。



反対側からも押されたので元に戻った。



内心ホッとしつつも、あとどれだけの時間この人混みの中で待たなければならないのだろう。



どうせなら、学校もバイト先もお休みにならないかなと思ってしまう。



レポート提出は今日までだ。



仕方ない。



遅延証明書を駅でもらって、ラッキーだったと思っておこう。



周りのほとんどの人が、スマホと睨めっこだ。



みんなそれぞれ動画を見たり、ゲームをしたり、メッセージを送り合ったりしていた。



下を向いているので、頭が見える。



その光景が異様だった。



私もその仲間入りをすれば、ここに同化できるのだろうか?



かといって、やりたいゲームも無いし、動画はできれば家で大画面でじっくり見たい。



気軽にメッセージのやり取りをする相手なんていない。



はて、困った。



いや、実際はそれほど困ってはいない。



こういう時こそ、自分の脳をフル稼働させて妄想するべきだ。



そうだな…できれば相手が積極的に話しかけてくれる陽気な人がいい。



背はそれほど高くなくてもいい。



「すごい人だね。何があったの?」



他人に気軽に聞いてしまうような軽いカンジの人がいい。



「私も来たばかりなのでよくわからなくて」



はい、終了。



もう一回やり直しだ。



「キミ、何があったか知ってる?」



「私も何があったか知りたいです」



印象悪すぎてダメだよね。



スマホが鳴り、妄想が途切れる。



「もしもし」



「みうちゃん、大丈夫? 電車止まってるってニュースしてたよ。電車走ってたら床下から変な音してたんだって。点検してるみたいだけど動きそう?」



「全然」



「もしかして、電車乗ってる?」



「ううん、ホーム」



「駅から出られそう? ランくんも電車で行けないから、車出してもらうみたい」



「へえー」



「ランくんが、よかったら一緒にって」



「あ…」



嬉しい話だ。



苦労して待たずに行くことができる。



車で大学までとか贅沢だな。



ここで待ちぼうけするよりよっぽどいい。



でも、できればランくんとじゃなくて宙斗と登校したかったかな。



いやいやいや、そんなことはない。



最近の私の頭、バグってる。



それに、あの宙斗が運転できるわけない。



思わずクスッと笑ってしまった。



「ランくんには誘ってくれて感謝してるって断っておいて」



「じゃ、僕の車出そうか?」



え?



はい?



「運転できるの?」



「できるよ!」



「どうして?」



「どうしてって、免許取ったからだよ」



「いつ?」



「高校卒業してすぐかな? ヒマしてたからね」



「いい、絶対電車で行く!」



「みうちゃん、僕に対抗心燃やさないでよ」



「燃やすもん!」



「今度、みうちゃんが行きたいとこ、ドライブがてらみんなで行こうね」



「却下!!」



そう言って、電話を切る。



まさか、取ってただなんて。



どんな風に運転するんだろう。



運転席に座る時に、お腹が邪魔にならないかな。



思わずクスッと笑ってしまった。



気軽にメッセージできる人。



私にもいるかもしれない。