ポヨポヨな彼の正体を突き止めたいのですが?!

5回コールしたにもかかわらず、出ない。



「ちょっと、どういうこと?」



せっかくこっちが電話しているのに無視とはいい度胸だ。



かけ直ししてきたら、出るのやめようかな?



って考えている最中にコール音だ。



「ちょっと、せっかくこっちからかけたのになんで取らないの?」



「ごめん、みゆちゃん。びっくりしてスマホ落っことしちゃったら、階段をどんどん落ちていっちゃって」



「え? 大丈夫?」



「うん、何とか。今電話できてるから大丈夫だと思う」



ポヨンポヨンの彼が慌てて階段を降りていくのを想像して、少し笑ってしまう。



その罪悪感を消すように彼にいい返事をした。



「もし時間あるなら、今から会わない? ちょうどバイトも終わったし」



「うん。できればランくんも一緒に」



「じゃ、モック前でいい?」



「みうちゃん、ファストフード食べるの?」



「なんでも食べるよ、私」



「わかった。気をつけて来てね」



「そっちこそ」



気をつけてなんて、そんな気遣い私に必要ないのに。



思わず笑みが溢れる。



小走りで彼らの所に向かう。



モックの前には、デコボココンビのように宙斗とランくんが立っていた。



うーん、どうやって意思疎通しているんだろう。



向こうはまだこっちに気づいていない。



しばらく観察してみることにした。



お互い、頷いたりしているのが遠くからでもわかる。



微笑み合ってなんともいえない、いい空気感。



「あの2人見方によっては、付き合ってるっぽく見えるかも」



ズキンと胸の奥が痛くなった。



ん? どうしちゃった?



独占欲?



居心地が良すぎて、おかしくなったかな?



「みゆちゃん! こっちこっち!」



宙斗がぴょんぴょんジャンプしながら、大きく手を振っている。



大きな声で呼ばれてしまった。



周りの人が注目するから恥ずかしい。



小さくなって、彼らのところへ小走りで行く。



「中入ろう。今、モックで『シジョー』のコラボしてるって!」



「そうなの?」



「ランくんも楽しみにしてるって」



中に入ると、夕食の時間と重なってか人がいっぱい並んでいた。



これは席がないかもしれない。



「座るところ確保するから、先買っていいよ」



そう言って、宙斗達を送り出す。



何か言いたそうだったが、あえて気付かないフリして店内の奥にもぐる。



だが、残念な事にどこも満席でどうしようもなかった。



ダメ押しで2階に行くも、やっぱり満席。



最後の願いで3階に行くが、そこもダメ。



食べ終わってもイチャつくカップルがいて、気分が落ちてしまう。



「メッセージしなきゃ」



急いで『席、確保できず』と送る。



気付いていないのか、既読にならない。



一階まで行こうとすると、イチャイチャカップルが立ち上がった。



「あの、ここ空きますか?」



すると、嫌な顔をされて再び座ってしまった。



礼をして、その場を離れる。



「何アレ? カンジ悪い」



「だなだな」



アイツらが言うのが聞こえる。



出ていこうとしてたくせに、というセリフは飲み込んでやった。



「まだ、帰ろうとしないぜ」



ムカムカする。



そっちが悪いんでしょ?



どうして、私が恥ずかしい思いをしなきゃいけないんだろう。



「みうちゃん! ここにいたんだ! 探したよ!」



大声なので、みんなが見てくる。



「来て来て。ランくんの知り合いがね、相席しでもよければって」



「ダッセーな、あいつら」



あの男の声だ。



「全然ダサくない! 気遣い上手だし、人の気持ちがすごくわかる優しい人なんだよ!」



「何? 逆ギレ?」



「みうちゃん! もう、いいから!」



「だって、この人たち…」



そう言って、思わず涙がこぼれた。



別に酷い事されたわけじゃない。



必死に探してた席が、嫌がらせみたいに塞がれてしまったからでもない。



きっと、ただ、ただ、いろんな感情が一緒にぐちゃぐちゃになったから。



ただ、それだけのことだ。



ただ、それだけ。