大学の正門。
試験の時は、門を見上げても何とも思ってなかった。
これからここに毎日通うんだ。
誰と出会うんだろう。
緊張するよね。
初めての時は特にね。
特に、県外出身だとそれは格別。
高校みたいに、知り合いは誰もいないし。
でも、この不安に負けたくない。
だから、一生懸命なんでもやりたい。
イケメン彼氏つくって青春するんだ!
気合い入れていくよ!
「神崎みう、ファイト!」
「みう…ちゃん?」
「えっと…どちらさま?」
「『どちらさま?』だって! 正真正銘のみうちゃんだ! 僕だよ、僕! 仲田宙斗」
「宙斗くん? 同中の? 途中でイギリス行った?」
仲田宙斗と言えば、スラリと背が高く、手足も長い。切れ長の目で微笑むと、周りの女子は声をあげて喜んでいた。
中学校に限らず、高校にもその人気の広がりはすごくて、いくつもファンクラブが発足していた。
はずなのに、中1の5月突然イギリスへ。
そして、私の元彼だ。(1日で別れたけど)
その彼が、目の前にいる。
いるはずなのに?
ニコニコしてこちらを見ているのは、明らかに別人だ。
背は普通より少し高め。
ボサボサの頭に、ノスタルジックな厚底ビンのようなメガネ。
それよりも何よりも、150キロは軽く超えるんじゃないかというぽっちゃりもぽっちゃりのポテポテな体型!
「宙斗くん、太った?」
「そうそう。ちょっとね」
いや、ちょっとどころじゃないでしょうよ!
これ、昔のファンの子たち見たら、ショック受けるよ。いや、私も今、完全にショックだし。
奇跡の逸材が、ナゼこんなふうにと思ったら泣けてくる。
「みうちゃん、どこの学部?」
「法学部」
「本当? 僕も」
「そうなんだ。じゃ、また後でね」
「待ってよ。一緒に行こうよ」
「並んで歩くのイヤなんですが。元カレと」
「気まずい? 僕は全然。元カレとか言ってくれて、ちょっと嬉しいな」
「は? キモっ」
「相変わらずだな、みうちゃんは」
「ちょっとっていうか、太り過ぎでしょ!!」
「それが、検査してもどこも異常なしなんだよ。すごいよね、僕って」
開いた口がさらに開く。
道路にひっついているガムを踏んづけた時のような気分だ。
このままずっと引っ付かれたら…って考えるだけでゾッとする。
「そうだ、見て見て! 可愛いでしょ?」
取り出したのは、フワフワしたもので作られたサメのミニチュア。
「うん、サメはフワフワしてないよ」
「でもフワフワしてたら可愛いでしょ?」
「サメは水の抵抗を少なくするために頭からおびれに向かってなでるとツルツルするんだよ? フワフワしてたら最速で泳げないでしょうが!」
「出ました! みうちゃん節。懐かしいなあ。ずっと聞きたくてしょうがなかったんだよ」
「前はオタクって言って嫌ってたでしょ!」
「そうだっけ? ゴミって言った覚えはある」
最悪だ。
悪魔だ。
私が何の罪を犯しましたか?
一生懸命、日々生きてきただけなのに。
なんの仕打ちでしょうか?
「みうちゃん、心の声、出ちゃってるから。あはは」
「それは失礼いたしました」
「ねえねえ、そこの可愛い子。新入生だよね? 何? これ、付きまとわれちゃってるカンジ?」
可愛いって言われちゃった!
しかもこの先輩もレベル高いっ!
「そうなんです。先輩〜助けてください」
「了解」
ウィンクなんて、こんな自然にできるもんなんですね。
「君、これ以上この子につきまとうなら、ケーサツ呼ぶよ?」
宙斗はポケットからスマホを取り出すと誰かと話し始めた。
「もしもし、ケーサツに来て欲しいって先輩がいるんだけど、パパ、今から来れる?」
「マジで呼んじゃってるんですけど?」
「どうせ、ハッタリですよ……いや、本当です! 一度、中学校に来てスマホの危険性についての講演してました! あれ? 先輩? どこ行くんですか? 先輩!!」
イケメン先輩、逃走。
どうするの? 結果、また2人だよ。
「なーんて。まだ電話してないんだよね。変な先輩追っ払ってやったんだから、感謝してよ」
「あんたが1番変な人なの!!」
ざわざわとする周り。
視線が一気に私に集まる。
しまった。
初日からやらかしてしまった。
「僕たち、演劇の練習中です。迫真の演技に拍手お願いしますね」
最初はまばらだった拍手が、だんだん大きくなる。
大きくなればなるほど、恥ずかしさがマックスだ。
ここは、走って逃げるのみ、いざ!
走って
走って
走った
「足早いね、みうちゃん」
え?
後ろから聞こえる声にゾッとする。
振り向きたくないが、ゆっくり振り向くしかない。
いた。
仲田宙斗が、息を切らして、汗も鼻水も涎も垂らした彼がいた。
なんなのよ、もう!
試験の時は、門を見上げても何とも思ってなかった。
これからここに毎日通うんだ。
誰と出会うんだろう。
緊張するよね。
初めての時は特にね。
特に、県外出身だとそれは格別。
高校みたいに、知り合いは誰もいないし。
でも、この不安に負けたくない。
だから、一生懸命なんでもやりたい。
イケメン彼氏つくって青春するんだ!
気合い入れていくよ!
「神崎みう、ファイト!」
「みう…ちゃん?」
「えっと…どちらさま?」
「『どちらさま?』だって! 正真正銘のみうちゃんだ! 僕だよ、僕! 仲田宙斗」
「宙斗くん? 同中の? 途中でイギリス行った?」
仲田宙斗と言えば、スラリと背が高く、手足も長い。切れ長の目で微笑むと、周りの女子は声をあげて喜んでいた。
中学校に限らず、高校にもその人気の広がりはすごくて、いくつもファンクラブが発足していた。
はずなのに、中1の5月突然イギリスへ。
そして、私の元彼だ。(1日で別れたけど)
その彼が、目の前にいる。
いるはずなのに?
ニコニコしてこちらを見ているのは、明らかに別人だ。
背は普通より少し高め。
ボサボサの頭に、ノスタルジックな厚底ビンのようなメガネ。
それよりも何よりも、150キロは軽く超えるんじゃないかというぽっちゃりもぽっちゃりのポテポテな体型!
「宙斗くん、太った?」
「そうそう。ちょっとね」
いや、ちょっとどころじゃないでしょうよ!
これ、昔のファンの子たち見たら、ショック受けるよ。いや、私も今、完全にショックだし。
奇跡の逸材が、ナゼこんなふうにと思ったら泣けてくる。
「みうちゃん、どこの学部?」
「法学部」
「本当? 僕も」
「そうなんだ。じゃ、また後でね」
「待ってよ。一緒に行こうよ」
「並んで歩くのイヤなんですが。元カレと」
「気まずい? 僕は全然。元カレとか言ってくれて、ちょっと嬉しいな」
「は? キモっ」
「相変わらずだな、みうちゃんは」
「ちょっとっていうか、太り過ぎでしょ!!」
「それが、検査してもどこも異常なしなんだよ。すごいよね、僕って」
開いた口がさらに開く。
道路にひっついているガムを踏んづけた時のような気分だ。
このままずっと引っ付かれたら…って考えるだけでゾッとする。
「そうだ、見て見て! 可愛いでしょ?」
取り出したのは、フワフワしたもので作られたサメのミニチュア。
「うん、サメはフワフワしてないよ」
「でもフワフワしてたら可愛いでしょ?」
「サメは水の抵抗を少なくするために頭からおびれに向かってなでるとツルツルするんだよ? フワフワしてたら最速で泳げないでしょうが!」
「出ました! みうちゃん節。懐かしいなあ。ずっと聞きたくてしょうがなかったんだよ」
「前はオタクって言って嫌ってたでしょ!」
「そうだっけ? ゴミって言った覚えはある」
最悪だ。
悪魔だ。
私が何の罪を犯しましたか?
一生懸命、日々生きてきただけなのに。
なんの仕打ちでしょうか?
「みうちゃん、心の声、出ちゃってるから。あはは」
「それは失礼いたしました」
「ねえねえ、そこの可愛い子。新入生だよね? 何? これ、付きまとわれちゃってるカンジ?」
可愛いって言われちゃった!
しかもこの先輩もレベル高いっ!
「そうなんです。先輩〜助けてください」
「了解」
ウィンクなんて、こんな自然にできるもんなんですね。
「君、これ以上この子につきまとうなら、ケーサツ呼ぶよ?」
宙斗はポケットからスマホを取り出すと誰かと話し始めた。
「もしもし、ケーサツに来て欲しいって先輩がいるんだけど、パパ、今から来れる?」
「マジで呼んじゃってるんですけど?」
「どうせ、ハッタリですよ……いや、本当です! 一度、中学校に来てスマホの危険性についての講演してました! あれ? 先輩? どこ行くんですか? 先輩!!」
イケメン先輩、逃走。
どうするの? 結果、また2人だよ。
「なーんて。まだ電話してないんだよね。変な先輩追っ払ってやったんだから、感謝してよ」
「あんたが1番変な人なの!!」
ざわざわとする周り。
視線が一気に私に集まる。
しまった。
初日からやらかしてしまった。
「僕たち、演劇の練習中です。迫真の演技に拍手お願いしますね」
最初はまばらだった拍手が、だんだん大きくなる。
大きくなればなるほど、恥ずかしさがマックスだ。
ここは、走って逃げるのみ、いざ!
走って
走って
走った
「足早いね、みうちゃん」
え?
後ろから聞こえる声にゾッとする。
振り向きたくないが、ゆっくり振り向くしかない。
いた。
仲田宙斗が、息を切らして、汗も鼻水も涎も垂らした彼がいた。
なんなのよ、もう!


