柊(私の10年間の片思いの傷の穴埋めを、陽向《コイツ》がしてくれることになった)
陽向の横顔のアップ。
柊(『じゃない』方の幼馴染のこいつが)
〇回想・結婚式会場
柊「埋め合うって、その、何、恋人にでもなるってこと?」
陽向「はあ? 誰がお前なんかと付き合うか」
失礼な物言いに少し不服そうな顔をする柊。
陽向、真面目な顔で柊に詰め寄る。
陽向「この失恋の痛みとやらが落ち着くまでのクールダウンだ。幸いお互い顔が似てるらしいからな」
柊の頬っぺたをむにゅりと手で挟む陽向。
陽向「とりあえず、ビジュアルを寄せろ。桜子さんの上品さを出せ」
柊、手を振り払う。
柊「……アンタ、自分が失礼なこと言ってる自覚ある?」
陽向「事実だろ。桜子さんはもっと『可愛い』。万年ジャージが桜子さんを語るな!」
柊「部活なんだから仕方ないでしょ!」
陽向「にしても、さすがに男子過ぎるんだよ!普段の言動含め!」
目を吊り上げて怒る柊。
仕返しするかのように、陽向を指さす。
柊「陽向こそ、そのパッサパサのダサいブリーチどうにかなんないの?」
陽向「ちょっと前のお前の言葉、そっくりそのままお返しするわ」
不満そうな陽向。柊は畳み掛ける。
柊「事実でしょ。ワックスも付けすぎじゃない?」
陽向「……こんの、俺の渾身のオシャレを!」
柊「平成のヤンキーなのよ、陽向って!」
髪を見せつけるようにする陽向、ハッと何かに気がついた顔をする。
陽向「良く考えれば、俺らって好きな人のタイプの真逆を行ってたんだな」
柊「わかってる、私も同じこと思った……」
もくもくと二人の上に、品行方正な新郎新婦(蒼真と桜子)の顔が浮かぶ。
2人して落ち込む。
陽向、顔を上げて柊の肩を叩く。
陽向「ま、今日の振袖は悪くないんじゃね。大人っぽくて」
笑顔でキラキラした陽向のアップで、回想終了。
○森宮家・自宅
柊「はーさっぱりした」
髪を切って美容室から帰ってきた柊。それをみた母親がぎょっとした顔をする。
母「ちょっと柊! 髪切ったの」
柊「そうだけど、変?」
さらり、と髪を払う柊。
長い前髪も切りそろえ、姉と同じ「ボブ」になった。
柊「私、お姉ちゃんみたいにするの!」
母「別にお姉ちゃんに寄せなくてもいいのよ。柊は柊の良さがあるわよ」
柊「そうかもしれないけど」
複雑な顔をした柊。母が溜息をつく。
母「……まあいいわ。お風呂入ってきなさい」
柊「うん」
〇お風呂・浴槽
柊(私は私の良さがある、か……)
柊(でも、約束しちゃったんだもん。お姉ちゃんに近付くって)
キラキラした姉の姿が思い浮かぶ。
柊(今日買ってきたボディスクラブしなきゃ。ヘアミルクつけて、パックもしなきゃ)
柊(今までスキンケアどころか、髪も乾かさずに寝てたのが信じられない)
柊「そんなんだから、私は……」
ブクブクと浴槽に口元までつかる柊。
柊「可愛く、なれるのかな」
柊「蒼真くん……」
柊(わかってる。結婚したら、もう手に入らない人になってしまうことくらい)
柊(それでも、可愛くなったねって思ってもらえるなら)
柊(それ以外、何もいらない)
〇学校・校門
桜が舞う校門を優雅に抜けていく柊。
柊(今日から新学期。私も高校二年生だ)
柊(大失恋かましちゃったけど)
柊(気合い入れて頑張らないと!)
柊、大きく一歩を踏み出す。
柊「おはよう、桃香!」
桃香「おっすぅ、ひーちゃん、って……!?」
※友人:桃香 ツインテールでちょっとギャルっぽい見た目。良い子。
桃香、目を見開いて怪訝な顔をする。
桃香「いや、マジ誰、え、ひーちゃん、え……イメチェンしすぎじゃね?」
柊「ふふん、新学期だし頑張ってみた」
サラサラの髪を見せつける柊。
どや顔の柊にジト目の桃香。
桃香「まあ、元気そうで良かったわ。蒼真さんの結婚式行って灰になってたらどうしようかと思ってたんだもん」
柊「そうだよね。ご心配おかけしました」
柊、ぺこりと頭を下げる。
桃香「本当に心配してたんだからさぁ、こっちだって色々……」
桃香の話を遮るように間に割って入る男。
陽向?「おわっ……、まさか、ひい、らぎ?」
柊「何よ、失礼ね……って」
顔を上げた柊。
そこには、蒼真そっくりの陽向がいた。
艶々の黒髪に、漆黒の瞳。知的な雰囲気も漂っている。
柊「ひな、た……?」
陽向「お、う……」
陽向、口元に手を当てて息を飲んだ顔。
陽向「いや、思ったより、その……桜子さんだなって」
柊「そっちこそ」
二人の間に甘い空気が漂う。桃香がジト目で二人を見つめる。
桃香「なに甘い空気漂わせちゃってんのぉ!」
二人「漂わせてない!!!」
二人とも顔を真っ赤に染める。
桃香「仲良しねー」
二人「仲良くない!」
桃香「とりあえず、行くよ」
二人「どこに!」
桃香「きょーしつ。あたしたち、同じクラスだよ」
二人「……えっ」
一瞬の間があり、柊と陽向は叫ぶ。
二人「えーっ!!!!」
柊(失恋の穴埋め相手と同じクラスなんて気まず過ぎる!)
〇教室・HR
柊(けれど、運命というのは、もっともっとイジワルなようで)
蒼真「担任になりました。天宮蒼真です。よろしくお願いします」
爽やかに微笑む蒼真。
生徒「わーカッコいい」
生徒「イケメン!」
生徒「今年の運使い果たしちゃった……」
耳を塞いで、机に突っ伏す柊。
柊「あーもう……っ」
柊「どうなってるの……私の運命……っ!」

