〇結婚式場
新郎新婦入場前の結婚式場の教会。豪華な振袖を着た柊の姿。
柊(私には10年片思いしている相手がいる)
柊(ずっと好きだった。誰よりも好きだった。世界中の誰よりも)
柊、目を瞑る。
柊(泣いては駄目だ。だって今日は……)
親戚たちが柊に駆け寄ってくる。
親戚女「まあ、ひーちゃんとっても綺麗ねぇ」
柊「ありがとうございます」
親戚男「柊はいっつもジャージ姿だし、馬子にも衣装だな!」
柊「はは……」
苦笑いをしながら唇を噛む柊。苦しそうに俯く。
(泣いては駄目だ。だって)
司会「それでは、新郎新婦の入場です」
ハープの音と共に入場してきたのは、きりっとした青年(天宮蒼真)と穏やかそうな美女(森岡桜子)。
親戚男「蒼真くんは教師。桜子ちゃんは銀行員だもんなぁ」
親戚女「美男美女だし、本当にお似合いよねぇ」
柊は強く唇を噛む。
(私の好きな人は、私の姉と結婚する――)
〇回想・幼少期
柊(ちょうど10年前、隣に歳の近い兄弟が越してきた)
玄関に立つ、蒼真と陽向。
蒼真・桜子(小学2年生と幼稚園)
陽向・柊(小学2年生と幼稚園)
蒼真、しっかりした表情で自己紹介をする。
蒼真「ぼくが天宮蒼真。こっちが弟の陽向」
陽向「……よろしく」
柊(一人が私と同い年で素行不良な天宮陽向、もう一人が姉と同い年で品行方正な天宮蒼真。幼いながらに美形の兄弟だなと思った記憶がある)
陽向、態度悪そうに蒼真の陰に隠れる。
桜子「あらあら陽向くんは恥ずかしがり屋さんなの? うちの妹といっしょね」
蒼真「ぼくと桜子ちゃん、陽向と柊ちゃんが同じ学年なのか。仲良くなれそうだね」
笑い合う蒼真と桜子。
桜子「……柊も、ちゃんとご挨拶して?」
蒼真「いいよ、だいじょうぶ」
恥ずかしがって桜子の陰に隠れる柊に、蒼真が近づく。
蒼真「よろしくな。柊ちゃん」
柊「……っ」
目線を合わせるようにしゃがみ込む蒼真。王子様のような優しい眼差し。
手を取られた柊、顔を真っ赤に染める。
柊(きっかけがいつかと問われれば、きっとこの時からなんだと思う)
柊(この時から、私はずっと蒼真くんに追いつきたかった)
柊(蒼真くんと話題を合わせたくて、)
【短い回想】小学校の時に蒼真のバスケ部姿を見て、「バスケさせてください!」という柊の姿。
柊(親に頼み込んでバスケを始めた)
【短い回想】学年1位をとった蒼真をみて、勉強に打ち込み、高校に合格する柊。
柊(苦手だった勉強も頑張った)
仲良く話す柊と蒼真の姿。
柊(お姉ちゃんなんかよりもずっとずっと近くにいた)
【回想】蒼真のバッグまで豪快に持ってあげる柊。
柊(近くに居すぎて男らしくなり過ぎてしまった気もするけれど)
柊(それでも乗り越えられなかったものがあるとしたら、それは、きっと――)
〇結婚式場・ガーデンにて
司会「お二人は同い年で幼馴染だということですが」
蒼真「……はい、桜子とは学校も、クラスまでずっと同じで」
司会「まあ、なんて運命的なんでしょうか!」
司会「そんなお2人から、幸せのおすそ分け、ブーケトスのお時間です」
顔を曇らせる柊。
柊(何が「運命」だ。神様は不公平だ)
柊(私の方が先に生まれていたら、隣に立っていたのは私だったのに)
柊(きっと私の方が、お姉ちゃんなんかより、ずっと先に好きだったのに)
明るい髪の男子(天宮陽向)が柊の肩を叩く。
陽向「おい、柊。ブーケトス始まるぞ」
柊「陽向……」
陽向「お前の気持ちはわかるけど、ここは周りに合わせとけ」
柊「うん、ごめん。ちょっとぼーっとしてた」
柊、ブーケトスを待つ女の子たちの真ん中に躍り出る。
司会「それでは、ブーケトスです」
悟ったような顔をする柊。
桜子からブーケが投げられる。
柊(「お姉ちゃんよりも私の方が先に生まれていたら?」いや、違う)
【柊の頭の中】桜子と柊が背中合わせになって、比較しているような様子。
柊(身長も、体つきも、性格も、私は、何もかもお姉ちゃんとは違う)
柊(私じゃ、駄目だったんだ)
ぽすん、と柊のもとにブーケが落ちてくる。柊は涙を流しながら、無理やり笑う。
柊「結婚……おめでとう! お姉ちゃん、蒼真くん!」
〇式場・屋上にて
?「お」
泣きじゃくる柊のもとに声がかかる。
陽向「先客発見」
柊「……ひなた」
憂鬱そうな顔で涙を拭った柊は、陽向に向き合う。
柊「別にお姉ちゃんたちは二次会に行ったんだし、いいじゃない。いくら泣いたって」
陽向「そうだな」
陽向も柊の横に並ぶ。
差し出されたオレンジジュースを受け取る。
陽向「親族控え室に置いてあった。昔から好きだろ? オレンジジュース」
柊「うん、ありがと」
柊、オレンジジュースを1口飲む。
ちらりと陽向の方をうかがう。
柊「というか、陽向、今日タキシードなんだね。高校の制服じゃなくて」
陽向「……」
切なそうに顔を伏せたあと、笑顔をつくる陽向。
陽向「だって、最後くらい、桜子さんにガキだって思われたくないじゃん?」
柊(私だって同じだ。蒼真くんに高校生だと思われたくなくて、今日は振袖を着たんだもん)
柊「長い片思いだったね、お互い」
陽向「……おう」
陽向「あーあ! なんかさ、俺らマジで報われねーよな!」
手すりに寄りかかる陽向。前髪をくしゃくしゃとかきむしったあと、地面を見つめる。
陽向「二人ともとっても綺麗で」
陽向「とってもお似合いだった。俺の入る余地なんてどこにもない」
陽向「二人とも嫌な人だったら良かったのに……」
柊「うん……」
陽向「桜子さんのこと、本当に好きだったのになぁ……」
ぼろぼろと涙を零す陽向。
その瞬間、柊は目を見開いて、言葉を零す。
柊「……蒼真くん」
陽向に大好きな蒼真が重なって見えたのだ。
柊(似てる、凄く似てる。そりゃそうだ兄弟だもん)
柊、ドキドキが止まらなくなる。
陽向が顔をあげて、まじまじと柊を見つめる。
柊(長いまつ毛も、高い鼻筋も、艶々の肌も、全部そっくりだ。全然似てないと思ってきたけど)
2人ともぱちん、と目が合って時が止まったように固まる。
陽向「なあ」
柊「ねえ」
柊(ああ、多分、私たちは同じ『ズルいコト』を考えている)
陽向、柊に詰め寄る。キスをするように顎に手を添えられる。
陽向「……やっぱ姉妹だな。よく見れば似てる」
柊「…………」
柊、目を逸らす。
陽向、柊の顔をおさえてじっと見つめる。
陽向「なあ、お互い埋め合わね? この感情が消えるまで」
柊(「好きじゃないほう」のおさななじみは、私に魅力的な提案をしてきたのでした)

