自分は愛されてないのに、桜駒だけ愛すなんて不平等でおかしい。
幼い頃の俺の、そんな子供染みた理由で桜を愛することができなかった。
俺がするべきだったのは、愛されてないことを教えることじゃなくて。
桜駒を愛してあげれば良かっただけだった。
「ごめん......ごめんなぁ、桜駒....」
枯れたはずの涙が溢れ、桜駒の頬を濡らす。
「....お兄ちゃん......?泣いてるの....?」
桜駒が顔を上げ、濡れた瞳で俺を見つめる。
そして俺の類に伝う涙を拭った。
「お兄ちゃん......ごめん、ね.....。離れ離れになってごめんね......っ」
「....桜駒..」
桜駒は俺の首筋に顔を沈めると、呟くように言った。
「行きたくないなあ.....」
そう小さく、己の意思を言うように。
「行きたくない......離れたくないよ.....お兄ちゃん......」
「っ......」
俺だって、離れたくないよ。

