「『本日も聴いてくださりありがとうございました』」
私がそう言い終えてマイクのスイッチを切ると、
「せんぱーい、お疲れ様でーす」と、元気の良い大型犬のように後輩が入ってくる。つやつやしている。
(ドキ)

「今日も先輩の声大好きです!!」
そう言って嬉しそうに後ろから抱きついてくる大型犬。気分は悪くないけど、まだ、ミキシングルームにひとが、
(いない!?)
スタッフの生徒たちはどこへ。逃げたな!?

「先輩、いっぱい喋ってください」
「きみだって良い声してるじゃん」
「俺、自分の声キライなんすよ。ちょっと特徴ある枯れ方してるじゃないですか」
「私はすてきだと思うよ。きみの声」
ん? 大型犬の動きが止まった?

「先輩、大好きー!!」
「!?」
「先輩、大好きです!!」
「わ、わかった。わかった」
「キスして良いですか?」
「え」
左のこめかみにふわっとキスをされ、キュンとした。
「先輩ってお肌綺麗。秘訣とかあります?」
「え? いや、特には」
「先輩、」

抱きしめる腕に力をぐっと込められて、嬉しいのに胸が詰まった。
左耳にふっとキスをされて、「ひゃ」と縮こまってしまった。後輩が、低くふっと笑う。大人びた声で。
「先輩。
俺、先輩の甘い声聴きたい」

「え」
いつの間にか唇を奪われていた。喉を指先で軽くなぞられながら。
こんなハチミツみたいなとろける極あまのキスをされたら、本当に声が甘くなってしまいそう。
(溶けそう)
私のひみつの甘い声は、
きみだけが知っていて。


2025.04.01
蒼井深可 Mika Aoi