図書館の地味な女の子は…

放課後の図書室。
静かな空間に、ページをめくる音だけが響いていた。

祐也は、ノートの上でペンを走らせる。
その隣には、春川澪。今日もいつもの席で、本を静かに読んでいる。

そんな空気を破ったのは、やっぱりこの男だった。

「おーっす、祐也、澪! やっぱおったか!」

図書室の扉を開けて、ドタドタと入ってきたのは佐藤大毅。
バスケ部仕込みの声量と勢いで、祐也は思わずペンを止めた。

「大毅うるさい!」

「ええやんか、ちょっとくらい。なんや、また二人でいちゃこらしとったん?」

「あ??」

澪は笑いもせず、ただ「こんにちは」と軽く会釈した。
その落ち着いた態度が、逆に大毅のテンションをさらに上げる。

「ほらな!祐也、あれやで。その静かなやりとりの中に“気配”あるねん。甘酸っぱいやつな?」

「帰れってマジで」

「帰らんて。たまには俺も混ぜてや。ほら、せっかくの縁やん?三人で話すんもええと思うで?」

祐也はため息をつきつつも、澪に目を向ける。
彼女は特に嫌そうな素振りもせず、本を閉じた。

「いいよ」

その一言に祐也の肩が、少しだけ緩んだ。

「なー、澪。祐也の小説って見たことある?」

「ううん。まだ。読ませてくれないから」

「マジか、お前隠すタイプか!」

「……まだ完成してないんだよ。中途半端なもん見せたくないだけ」

「なるほどな。そういうとこ、こいつ真面目やからな」

大毅は頷いてから、ふと昔を思い出すように澪を見る。

「けど、ほんま変わったよな、澪。昔はもっとガキみたいな感じやったのに。祐也、信じられへんやろ?」

「え、マジで?」

「うん……。昔は、よく木登りして落ちたりしてた」

「それはそれで見てみたいな……」

澪がほんの少し笑った。その表情に、祐也の心臓が跳ねる。

「なぁ、これってつまりさ」

唐突に大毅が口を開く。

「小説に夢中な男子と、昔はおてんばで今はクールな読書少女と、その幼馴染っていう三角関係になるんちゃん?」

「は!? なんでお前が第三の男ポジションなんだよ!」

「ちゃうちゃう、俺はナレーション的な立場や。空気をかき回す狂言回し的な?ほら、俺おらんと盛り上がらんやろ?」

「大毅は昔から分からないね」

祐也が呆れたように頭を抱えると、澪は声を出して笑っていた。
でも、そこには確かな“楽しさ”があった。

いつも静かな図書室。
だけど今日は少しだけ、騒がしくて――心地よかった。