図書館の地味な女の子は…

次の日の昼休み、祐也は迷わず大毅を屋上に呼び出した。
誰にも聞かれたくなかった。言葉にするのが、怖かったからだ。

屋上の風は少し冷たくて、二人の間に流れる空気も、どこか重かった。

「なあ、大毅」

「ん? なんや、改まって。おまえ、珍しいな」

祐也はしばらく黙ったまま、大毅の顔を見つめた。
そして、ゆっくりと、昨日見たことを口にした。

「俺……昨日、零のあとをつけたんだ。おまえに笑われたあと……気になって」

大毅は目を丸くする。

「はぁ!? おまえ、マジでストーカーみたいなことすんなよ気持ち悪っ!」

「笑ってる場合じゃないんだよ」

祐也の声が震える。
言葉が喉で詰まって、それでも何とか絞り出すように言った。

「廃屋に入っていった。誰かと話してた。黒い服を着た男……。
それで……聞いたんだ。……おまえを、“殺す”って話してた」

一瞬で、大毅の表情が凍りついた。

「……は?何言ってんの?」

「“佐藤大毅はもういらない”って。次は週末、おまえの家にいる時を狙うって。
前に俺が邪魔したせいで失敗したって、そう言ってた……。
あいつ、ほんとに……澪、本気で――おまえを殺そうとしてる」

風が吹いた。
その音だけがしばらく二人の間に鳴っていた。

「……おまえ、それ……」

大毅が絞り出すように言った。

「マジの話か?」

「……ああ」

祐也は真剣な目で頷いた。

大毅は眉をひそめて、ぽりぽりと頭をかいた。

「……ほんまに、信じられへんありえへんやろ…
けどおまえが、こんな顔して言うんやったら嘘やないんやな」

しばらく沈黙したあと、大毅は低く笑った。

「……おい、なんなんそれ。
俺、昨日ちゅーされた夢見た思たら、今度は殺される夢の続きやんけめっちゃホラーやん、これ」

「笑い事じゃないって……!」

「わかっとるわ」

大毅の目が、いつになく真剣になった。

「ほんまにそうやったんやとしたら……次、来るんやな。週末に」

祐也は頷いた。

「……どないする?」

「……わかんない。でも……俺、見過ごせない。
おまえが殺されるかもしれないとか、そんなの――絶対いやだ」

大毅は祐也の肩を軽く叩いた。

「ありがとな、祐也。……おまえが言ってくれて、助かったわ」

祐也は黙ってうなずいた。
だが、心の奥ではまだ、澪の“あの目”が焼きついて離れなかった。