その後指定通り──旅館の少し先で待っていれば、一台のバイクが私の前で止まった。
「え?」
ヘルメットを取り、髪を整え出す貴公子。
「……よっ」
「え、バイク?自分の?」
「親父のお古だけどな」
もしかして、このバイクを見せに来たってこと?
「ドライブでも行くの?気をつけてね」
「バーカ、お前も行くんだよ。ほら」
「うわっ……!?」
貴公子はヘルメットを私に投げると、自分もヘルメットをかぶり、バイクに跨がった。
「早くかぶれよ。んで後ろに乗れ」
「後ろって……何で私も?」
「将来のことで憂鬱者同士、ドライブでもして解放感に浸ろうって思ってな。悪くねぇだろ?」
憂鬱者同士って……
でも、バイクには乗ったことはないから、これこれでいいのかも。
「うん、悪くねぇ」
「だろ?」
ヘルメットをかぶり、私は貴公子の後ろへと座った。
「よし、いけ貴公子」
「……いやいや、いけじゃねぇよ。ちゃんと掴め」
「え、だって……」
乗った時に思ったけど、二人乗りってことは私が後ろから掴んだら……抱きつくみたいな形になるわけで。
そんなこと、貴公子に出来るわけないでしょうが。
だから気持ちちょっと背中の服を掴んだだけに。
すると躊躇う私にしびれを切らしたのか、貴公子がヘルメットを外して振り返ってきた。
「んなちょこんと掴んだだけじゃ、道路に振り落とされっぞ」
「だ、だって」
「何照れてんだよ。いいから早くしろ。それとも恥ずかしいからやめるか?」
「……は!?恥ずかしくなんかねぇっての!」
「だったら、しっかり掴まってろ」
明らかに挑発にのったと思う。



