私は駅ビルに到着するとエレベーターに乗り込み、耳鼻科のある3階のボタンを押す。
私がこの耳鼻科を選んだのにはいくつか訳があった。ひとつは風邪気味といえ桜大は熱がある訳でもなく外に出たがったから。
もうひとつは、いつものかかりつけの病院が休診日だったこと。また今から受診する耳鼻科は初診でも予約できたためだ。
(小さい子がいると……予約できるのはありがたいな)
私は耳鼻科の扉を開けると受付を済ませる。間も無くしてすぐに診察室へと呼ばれた。
そして診察室へ入った瞬間だった──。
私は驚きのあまり思わず硬直してしまった。
10年分、歳を重ねたため、あの頃よりも随分大人の男性になっているが間違いなく葉琉だ。葉琉のトレードマークだった右目の下のホクロの位置も勿論同じだ。
(こんな偶然……)
声を発することなく固まっている私を見ながら、白衣を着た葉琉も目を見開いている。
「あ……えっと田中、桜大くんだね……どうぞ」
聞き覚えのある、少し高めの声に私は頷くと桜大を椅子に座らせた。
十年ぶりに見る葉琉は手際よく桜大を診察しながらパソコンに入力していく。
そしてその大きな手のひらの薬指には結婚指輪が光っている。
私がこの耳鼻科を選んだのにはいくつか訳があった。ひとつは風邪気味といえ桜大は熱がある訳でもなく外に出たがったから。
もうひとつは、いつものかかりつけの病院が休診日だったこと。また今から受診する耳鼻科は初診でも予約できたためだ。
(小さい子がいると……予約できるのはありがたいな)
私は耳鼻科の扉を開けると受付を済ませる。間も無くしてすぐに診察室へと呼ばれた。
そして診察室へ入った瞬間だった──。
私は驚きのあまり思わず硬直してしまった。
10年分、歳を重ねたため、あの頃よりも随分大人の男性になっているが間違いなく葉琉だ。葉琉のトレードマークだった右目の下のホクロの位置も勿論同じだ。
(こんな偶然……)
声を発することなく固まっている私を見ながら、白衣を着た葉琉も目を見開いている。
「あ……えっと田中、桜大くんだね……どうぞ」
聞き覚えのある、少し高めの声に私は頷くと桜大を椅子に座らせた。
十年ぶりに見る葉琉は手際よく桜大を診察しながらパソコンに入力していく。
そしてその大きな手のひらの薬指には結婚指輪が光っている。



